前回は単に「偏差値」についてお話ししましたが、当然学校は偏差値のみではかれるものではありません。
学校を選ぶ際、一番最初に考える事は「公立にするか私立にするか」という点ですよね。
これは地域によって大きく事情が異なってきます。
首都圏や都市部のように、個性的な私立が沢山ある場合は選択肢が多様であり、誤解を恐れずに言えば優秀なお子さんは中学から私立に集まる事が多くなります。これが、関西で10人に1人、首都圏で5人に1人、都心では2人に1人が受験するという数字に結びついているのです。
では、なぜ都市部では中学受験が過熱しているのか? 中学の数が多い点以外に理由はあるのでしょうか? 以前この連載の「中学受験事情~その①~」で少し触れましたが、今回もう少し掘り下げていきたいと思います。
私立の大きな特色――それは「強い理念」です。
私立は「こういう人間を育てたい」という、創立者の強い想いによって学校が創立されており、教育理念が非常に明確です。それをもとに、授業や部活、行事などのソフト面、施設などのハード面が整えられています。
有名どころの理念を見てみると
○開成 「知性・自由・質実剛健」
○麻布 「自主自立」「自由闊達」
○武蔵 「東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物・世界に雄飛するにたえる
人物・自ら調べ自ら考える力ある人物」
○桜蔭 「勤勉・温雅・聡明であれ。責任を重んじ、礼儀を厚くし、よき社会人であれ」
○女子学院 「愛と思いやりの心をもって他者に仕える」
○雙葉 「徳においては純真に、義務においては堅実に」
学校によって全くカラーが違いますよね。
これらの理念に賛同した人が集まるため、私立は結束も強まります。私立中高出身者が、自身を大学でなく中高名で名乗ることがあるのもこのためです。
当然、全ての私立がこうであるわけではなく、公立にも強い理念や伝統のある学校はありますが、公立の場合は校長はじめ教師に異動があるため、年によって学校の方針に差が出てくる事もあり、理念に関しては私立に軍配が上がります。
では、公立の特色は何でしょうか。
まず、真っ先にあがるのは「学費」。もともと中学校は義務教育なので、学費はかかりません。しかし私立中学に進めば年間100万円は見ておく必要があり、本当にバカにできません。
続いて「先生が優秀」である事。
昔の”でもしか先生”と違い、今は教員採用試験をパスするのは本当に難しくなっています。また、晴れて先生になっても、今は授業さえしていれば良いわけではなく、放課後は部活に保護者対応、自分の授業研究やその他の仕事は深夜残業――というハードな内容です。それでも先生になりたい、という熱い想いを持った人材が公立の教職につきます。
ただ、私立と違い、前述したように校長先生以下転勤があるため、せっかく良い先生に巡り合えてもずっと見てもらえるわけではないのが公立のジレンマです。
続いて「バラエティ」。
私立に集まるのは、学校の理念に賛同した生徒であり、所得層も似たような傾向にあります。一方、公立は多種多様な生徒が集まるため、ある意味「社会の縮図」となっています。
そして「地域社会との連動」。公立の場合、たいていは近場の学校に通うことになります(中には有名公立に越境するパターンもありますが)。公立は地域に根差した教育環境であるため、地元愛や協力体制が育ちます。
ところで、「公立ショック」という言葉を聞いた事はあるでしょうか?
さらに「ゆとり教育」ならば耳になじみがあるのでは?
ゆとり教育は、「詰め込み教育」に対するアンチテーゼとして1980年度、1992年度、2002年度から施行された学習指導要領をさします。この新指導要領により、学力低下が大きな社会問題となって中学受験が過熱しました。これがいわゆる「公立ショック」または「2002年問題」といわれています。
具体的に公立小・中学校の授業時間(主要5教科の3年間授業時間)の推移を見てみると
<小学校>
1972年 1981年 2002年 2012年
2240時間 1925時間 1565時間 1925時間
<中学校>
1972年 1981年 2002年 2012年
3941時間 3659時間 2941時間 3312時間
と、大幅に授業時間が削減されたのがわかります(日能研調べ)。また、当然授業で扱う内容も平易になりました。
教育内容の削減については、有識者が様々な事を言っています。東京大学大学院の佐藤教授(学校教育学)は
「71年の改定の頃の教育内容レベルが最も高かった。当時の小6の算数の教材と、今後の改定後に作られるものを比べると3分の2がなくなっている」
と話しています。そして、71年改定時の算数の内容は、まさに今の中学受験算数の内容なのです。
前回と今回とで、学校を選ぶ際の判断材料を色々書かせて頂いていますが、連載の最初からお話ししているように、一番大切なのは「どのように我が子を育てたいか」という家庭の方針です。
ただ、日本の実情、世界の実情を知らず、自分の生きてきた世界観だけで結論を出すには、あまりに世の中が変わってきています。
次回は、PISA(国際学力評価プログラム)をはじめとし、世界から見た日本の教育、今後どのような人材が必要とされていくのかについてお話ししたいと思います。
安浪 京子 【プレスティージュパートナー代表】
記事テーマ
学力低下、理数離れ、詰め込み教育・・誰もが聞いたことのあるこれらのキーワードは、幼児期における家庭での関わり方によって、影響されずにすむ力をつけることができます。そんなエッセンス ―親子で楽しく思考力・集中力を鍛える方法― について連載していきます。