前回、脳が活発に動いている状態は「集中」という形で現れる、とお話しました。
集中とは、脳全体が活性化している状態ではなく、脳のごく一部のみが高度に活性化(その他の部分は活動低下)している状態です。だから、集中していると周囲の雑事が気にならなくなる(=意識がいかない)のです。
そして、この集中状態は何時間も続くものではありません。
数年前にyahooが行なった調査によると、自分の集中力の持続時間は「~30分(27%)」と答えた方が多く、次いで「~60分(19%)」となっていました。
集中力の持続時間に関しては脳科学的に色々言われている一方、個人差が大きいため一概に「○○分は持続する」とは言えませんが、長年家庭教師をして実感していることは
○集中力のない子はいない
○集中力は鍛える事ができる
○集中力を50分持続させるコツがある
という点です。ちなみに、この50分とは、多くの中学入試で国語・算数を解くのにそれぞれ与えられる時間です。
では、具体的にどのように集中力を鍛えれば良いのか。
そのためには
①集中する前にリラックスする
②時間を区切る
ことが重要になってきます。
①リラックス
身体がリラックスせず、疲れたり緊張したりすると、血流が悪くなり、脳に必要な酸素が行かなくなります。そのため、普段の力を発揮することができません。「本番になると緊張してうまくできない」という方には実感して頂けるのではないでしょうか?
集中にはかなりのエネルギーを要するため、まずはリラックスして体力を温存し、脳に十分な酸素を行き渡らせることが大切です。
私も毎回の授業で、必ず最初の5分は雑談をします。
これは「コミュニケーションを図る」「子どもの今日の状態を把握する」と共に、これから行う授業に対して素早く集中力を発揮してもらうという目的もあるのです。
②時間を区切る
単に「集中してこれをやりなさい」と突然言われてても、そう簡単に集中できるものではありません。そもそも人間、目標もなく「やれ」と言われてもスイッチは入りにくいですよね。
集中力を鍛えるためには、まず「時間を区切る」ことからスタート。私も毎回の授業ではストップウォッチを利用します。
この時の時間設定としては「1分」ないしは「全量を消化できる時間よりやや短め」がコツ。
もちろん、状況に応じて設定時間は様々ですが、何の工夫もせず1時間丸投げで集中させるのはあまりオススメできません。
さて、ルールを理解して頂いた所で、早速実践へ。
私が教えている、小学校4~6年生向けのものをご紹介します。
まず、最初は「平方数」。
算数に出てくる単語って――漢字で書くと、すごく難しく感じますよね(笑)。
平方数とは、同じ数を2回かけたものを言います。九九も平方数です。平方数は、中学入試で
『知らないと苦労する(時間がかかる)けど、知っていると楽(速い)』
なものの代表例です。計算で便利なのはもちろん、意外に平面図形で使うこともあります。
中学入試で頻繁に使うのは
11×11=121 16×16=256
12×12=144 17×17=289
13×13=169 18×18=324
14×14=196 19×19=361
15×15=225 20×
20=400 ついでに、25×25=625
中学校の平方根でやったなぁ・・なんて記憶の蘇った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
さて、これを「集中して1分で覚えなさい」とお子さんに丸投げするのはNG。
以下に手順を記します。
①準備
上記の平方数を紙に書く(私はいつもノートの表表紙に書きます)
②開始
「今から1分で覚えてね。よーい、ドン!」
と、子どもの競争心を書き立てる言い方(かけっこのイメージ)でストップウォッチをスタート。
1分間は黙ってお子さんの表情を見ていてあげて下さい。
③止め
「はい、やめ!」で紙を取り上げる。
④確認
「じゃ、どこまで覚えたか確認するね」
と言い、「11×11は?」と順に聞いていく。最初は順に聞くのがポイント。慣れてきたら、ランダムに聞いて下さい。
①~⑤を、あと1~2回繰り返します。これで一日分のトレーニングは終了。3回やっても5分程度で済みます。
前述したのはあくまで手法。
お子さんの集中力とやる気を引き出すには、今から述べるポイントが非常に重要です。
【1】褒める
算数に限らず、子育ての最大のポイントはこれ。
最初の1分で、もしいくつかを覚えていたら、もちろん手放しで褒めてあげましょう。
――覚えたのがもし1つだけだったら?
「すごい!20×20は覚えられたんだね!2ケタって難しいのに、さすがじゃない!」など。
――では、もし0こだったら・・?
「すごく集中してたね。思わず見惚れちゃった」
「こんなに難しそうなのに、よく正面から取り組んだね。その態度が素晴らしい!」などなど。
絶対に否定しないで下さい。もし否定したら、その時点でお子さんのやる気はなくなります。
また、親が一緒に覚える経験をするのも手。いかに大変なことをお子さんに課しているかがわかり、心から褒め言葉が出るようになりますよ(笑)。
【2】一緒に問題解決してあげる
この平方数、覚えるのにコツがあります。
一の位の数は、式の一の位の掛け算結果の一の位と一致するという事。(やっぱり文章で書くとわかりにくいですね)
例えば、13×13の場合、一の位は「3×3」。だから、答えの一の位は「9」になっていないとおかしいですよね?
18×18の場合も、答えの一の位は「8×8=64」の「4」。
これを親子で発見、もしくは親が教えてあげます。その上で
「一の位は間違えないようにしようね」
と、少し前進させてあげます。
他にも、ゴロで覚える、数字が逆さになっているなど、覚えやすい独自のルールを一緒に見つけてあげて下さい。
【3】一度で完璧にしない
人間、忘れる生き物です。
一度で完璧に覚えるお子さんもいますが、基本的に繰り返しが大切。昨日3つ覚えたのに、今日は1つしか覚えていない・・なんていうのは当たり前です。
ただ、「いつか覚えればいい」というのでは力がつきません。
「毎日2(ないし3)回やれば、2週間後には絶対に覚えてるよ」
と、目標(期限)を作る事が重要です。実際、今まで私が担当したお子さんで1ケ月以上かかったケースはありません。
【4】時間帯
前述したように、集中力というのはエネルギーを消耗します。
寝る前や大量の宿題を終わらせた後、とても疲れている時・・などに行なっても効果は望めません。かえって「今日は集中力が低い!」と親がイライラしてしまう事にも。
集中力を鍛えるなら、朝や勉強する前、空腹の時がオススメです。
今回は集中力をつけるための具体的な手順の1つをお話しましたが、重要なのは「コミュニケーション」です。
お子さんに教材をポンと与え、「集中してやりなさい」では、あまりに乱暴です。
一緒に取り組み、褒め、成長を喜んであげる――この繰り返しにより、集中力が鍛えられ、ゆくゆくは放っておいても一人で集中して物事に取り組めるようになります。
また、軽視しがちなのが「子どものプライド」。
「こんな難しいのできっこない」ではなく、「○○ならできるよ」「ちょっと難しいけど、○○ならできると思うんだ。一緒に頑張ってみようか」と、向上心を上手に掻き立てる事も大切です。
過干渉は子どもの成長に弊害を及ぼしますが、勉強を通して親子のコミュニケーションをより充実させて下さい。
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安浪 京子 【プレスティージュパートナー代表】
記事テーマ
学力低下、理数離れ、詰め込み教育・・誰もが聞いたことのあるこれらのキーワードは、幼児期における家庭での関わり方によって、影響されずにすむ力をつけることができます。そんなエッセンス ―親子で楽しく思考力・集中力を鍛える方法― について連載していきます。