助産師は、医療の視点だけでなく、ママの【体で訴える言葉】を感じ、お産の進みを読み取ります。
ママが自分で、お産の進行状況を把握するのは難しいでしょう。初めてのお産であれば尚更難しいでしょう。
だからこそ、助産師がママの【体で訴える言葉】からお産の進みの読み取り方のポイントを、ママもそしてパパも学び、
①事前に学ぶことで、見通しをもつこと
②お産で自信を失わないようにすること
この2つを今回の目的にしたいと思います。
②について違和感を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。今までの記事の流れとやや異なりますものね。
なぜ②を目的にしたかというと、意外とお産でネガティブな思いを感じたママが多く、そのママたちが次のお産は帝王切開や無痛分娩を望む声を耳にすることが多かったからです。
もちろんそれらのお産方法が必要な人もいるでしょう。しかし、私は一貫して【主体的なお産】【赤ちゃんとともに歩むお産】を訴えていますし、多くのママがこれらのお産をする豊かな力があると思っています。
だから他の多くのママのケースから学ぶことで、一度失いかけた自信を、取り戻したり、失わずにすんだりしてほしいと願い、②を目的にしました。
今回掲載した資料の説明から先に行います。この資料は、私が非常勤講師をしている帝京平成大学助産別科の学生(平成26年度入学)が、病院実習後に作成したものです。資料タイトルは「~対象と寄り添う中で見つけたもの~」です。ソフロロジーを推進する施設で実習したメンバーが、五感を使ってお産を読み取ることを学び、それをまとめたものです。あくまで助産師学生が、学生間でよりよい学びとして共有するために作成した資料であるため、専門用語も載っています。しかし、今回の記事では、私の方でかなり噛み砕いて、ママ・パパ用に要点のみをお伝えさせていただきます。
まず、お産を3つの流れで理解したいと思います。
①お産始まり期(ゆとり期)
②お産進み期(ゆとりなし期)
③いざ分娩期(キラキラ期)
①②③という数字の横に書いてある〇〇期とは、お産の進行という軸で捉えた表現です。( )内にあるのは、ママのメンタルの状態を軸として捉えた表現です。
*もちろんこの表現はお産関係の本には載っていない私ならではの表現です。教科書の内容を知ることではなく、お産の流れとママの状態を把握することを目的とし、このような表現にしました。
この時期は、陣痛もそこまで強くない時期です。それゆえ、ママもゆとりはまだある状態です。この時期のママを捉えた学生は資料の中で、以下のように表現しています。
・笑顔がみられる
・会話ができる
・他者の話が聞ける
・表情に余裕がある
・水分・食事を促すと摂取できる
・陣痛発作ピーク時、眉間にしわが寄るようになる
・自分の好きな体位を取り続ける
・生理痛のような痛み(を訴える)
考察:まだ陣痛の痛みも本格的なものではないため、ママはゆとりがあり、笑顔を見せたり、会話ができたりと普段の様子に近い形で過ごせていることが読み取れます。またこの時期のママの体からは、不安等の訴えもあまりないことも読み取れます。
この時期は、陣痛がどんどん進む時期です。つまりお産の進み具合もどんどん早まる時期です。お産の進みとともに、陣痛も増すため、ママはゆとりをどんどん失う時期です。
この時期のママを捉えた学生は資料の中で、以下のように表現しています。
・腰痛の訴えがどんどん強くなる
・気持ち悪くなってくる 嘔吐 胃部不快感
・優しかった人(ママ)が、夫や学生を無視する
・肛門押すと楽になる
・発汗(顔・手足の汗が増える)
・足に力が入りふるえる
・会話できなくなる
・弱音吐く 「帝王切開にして」「もういい!」
・「頑張れない」「お腹切ってください」とネガティブな発言が増える
・身体のよじれ
・人の話を聞いてはいるが返答なし うなずくだけ
・児頭(赤ちゃんの頭)が下がってきた自覚が本人(ママ)にある
・水分摂取はできない
・部屋に人が入ろうが誰が触ろうが、反応できなくなる
・「切ってください」「もう無理」といいだす
・泣き出す 涙がたまる
・発作(陣痛の時)間欠(陣痛後のリラックスタイム)がわからなくなる
考察:ママは、痛みがどんどん増し、不安が高まり、涙を流したり、「もう無理」などネガティブな発言をしたりします。
お産始まり期(ゆとり期)のような様子は一切なく、この時期のママの体は、不安や痛みを強く訴えていることが読み取れます。しかし、辛い状況にも関わらず、「児頭(赤ちゃんの頭)が下がってきた自覚が本人(ママ)にある」ということもあります。これはおそらく陣痛時ではなく、陣痛後のリラックスタイムに上手にリラックスする中で、自分の体の感覚の変化に気づけたということなのではないでしょうか。
一方、「発作(陣痛の時)間欠(陣痛後のリラックスタイム)がわからなくなる」人もいて、おそらくこの人は、リラックスタイムにリラックスできず、常に痛いと思い込み、ややパニックになっているようです。常に、不安と緊張を抱えていたため、産後にどっと疲れがでることと思います。
一番注目して欲しいのは、会話ができなくなる人もいれば、「もう無理」などの発言もできる人もいるということです。はじめてのお産で弱音を吐いたと悔いているママに振り返っていただきたいのですが、「もう無理」などの発言がができるということは、それだけ【ゆとり】がある証拠ではありませんか?
ゆとりがないこの時期に、発言ができた自分の力を再度見直していただきたいものです。そして、自分だけでなく、他の多くのママもネガティブな発言をしているという事実にも目を向けていただきたいと思います。
この時期は、助産師から「赤ちゃんの頭見えてますよ」などの声かけもあり、長かった道のりの出口が見えてくる時期でもあり、もうすぐ赤ちゃんに会えると自分を奮起させる時期でもあります。
この時期のママを捉えた学生は資料の中で、以下のように表現しています。
・児娩出直前(いよいよ赤ちゃんとご対面という直前)になると、顔がしっかりしてくる(表情がでる)
・分娩体位をとると顔に生気が戻りキラキラする
考察:お産始まり期(ゆとり期)では、表情があったママが、お産進み期(ゆとりなし期)で表情をはじめ普段の自分を一切合切失ったママが、赤ちゃんと対面する前に、再度表情を取り戻します。ここではおそらく【ゆとり】ではなく、ゴールが見えたゆえの【達成感】や、10ヵ月待ちに待った赤ちゃんと会える【喜び】が心のエネルギーとなり、ママが表情を取り戻すに至ったと思われます。
学生の感覚は素晴らしいもので、長いお産をママとともにした中で、ママの変化をよく読み取り、素直に「キラキラする」と表現しています。ママたちは、その瞬間のご自分の表情を見て取ることはできませんが、どのママも「キラキラ」していることでしょう。この時期のママの体からは、不安や痛みの訴えより、心のエネルギーが満ちていることが読み取れます。
①この記事を、お産の前に読み、このような変化が自分にも起こるであろうとママが学び、イメージするだけでも、お産であきらめそうになったときに、ふと「他のママも泣き叫んでた。でも最後にはみんなキラキラした顔になれるから、私も頑張ろう」と自分自身を励ますのも一つの方法だと思います。
②パパも事前に目を通すことで、自分の妻もこのような状態になるかもしれないとイメージを持ち、その時自分はどうサポートしてあげたらいいかと考えておくのも一つの方法でしょう。具体的には、パパはお産の痛みを体感しないゆえ、ママよりゆとりを持っていられるので、ママの【体で訴える言葉】から、お産の進みを読み取り、ママにフィードバックしてあげるのも良い方法です。残念ながら、助産師はずっとママのそばについていることは難しいです。
しかし、パパは付き添えますよね。助産師がいない分、パパがママにお産の進行についてフィードバックしてあげたり、助産師にママの状態を伝え、橋渡しの役を担ったりするのもすてきなやり方だと思います。
③産後の自分たちのお産の振り返りに、ママやパパでこの記事をもとに話し合うのも一つの方法でしょう。
自分たちのお産のよかった点、課題点を振り返り、次もお産することを望むのであれば、どういうお産がしたいか、【主体的】に考えていただけたら幸いです。きっとママ・パパたちらしい答えを導き出されるのではないでしょうか。
最後に:帝京平成大学助産別科の学生達は、素晴らしい感覚をもち、たくさんのことを実習で吸収しました。助産師はママの【体で訴える言葉】を感じ、お産の進みを読み取るという大事なポイントを、私が彼女たちから学ばせてもらったことに心から感謝します。いつの日か、彼女達がきらりと光る助産師になる様子が目に浮かびます。
ひらきだ ゆき 【臨床心理士 精神保健福祉士】
記事テーマ
初めてのお産・子育てって不安ですよね?でも大丈夫。ママが主体的であれば、赤ちゃんも力を合わせママとお産を頑張ってくれます。初めての母子での共同作業のスタートが主体的であれば、その後の育児もとまどうことはあっても、そのママらしい力が発揮でき、赤ちゃんも自己発揮できます。そのお手伝いを、カウンセラーの視点から楽しく具体的にさせて頂きます!