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待機児童対策?!育休中に子どもが保育園を退園させられる?!パート3 ~保育士のの視点で捉えるこの問題~/2015年7月

現役保育園ママ&現役保育士にインタビュー

社会問題化している育休退園問題について、今回は保育士の立場からこの問題をどう捉えるのかということを一緒に考えたいと思います。


今回は、現役保育園ママでもあり、あかねの虹保育園で保育士を11年されている長谷川あやさんにインタビューさせていただきました。保育士として、クラス担任の立場から、この問題が子どもにどのような影響を与えるかということについて教えていただきました。
 

保育は託児とは違う

まずこの問題についてどう思われるかを長谷川さんに伺ってみました。

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育児休業をとったら0.1.2歳児クラスの子どもが退園ということは、【0.1.2歳児の保育が軽視されている】ことが大きな問題だと思っています。【安心した環境の中で子どもが育つ】という大事な所がこの制度だとできないのです。

 

出産するお母さんがクラスに何人もいます。多い園で1クラスに5人います。毎月のように誰かが退園、新しい子が入ってくるという保育を繰り返すことになります。新しく入った子もクラスになかなか慣れないと同時に、在園していた子どもたちも毎月のように新しい子が入り、その子たちの泣き声にどれだけ不安になることでしょう。クラスが不安定になり【友だちと育ち合う】【集団で育ちあう】ことが失われていきます。これでは、【安心した環境の中で子どもは育つ】という大事なことが保障できません。子どもは、人と関わり合いながら集団の中で大きく成長しています。

 

1歳、2歳児は、自我の育つ人間の発達の中でも大事な年齢です。自我は、仲間の中で育ちます。この大事な時期を大人が強引に奪うことをしないで欲しいと思います。

 


また、クラスは1年を通して年齢に合った保育を保障するために計画を立てて進めています。ただその日預かるだけの託児ではなく、【保育は教育と養護が一体化したもの】なのです。

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行事もイベントとは違う

【保育は託児とは違う】【保育は教育と擁護が一体化したもの】という2点がキーワードのように感じました。おそらく託児は「預かるだけ」だから、特に保育計画なども必要はない。お子さんの特徴や生活リズムを把握して安心・安全に預かるというニュアンスなんだと思います。

 

ところが、保育は、発達に見合う年間計画があるもの。それをもとに大事にする、守るという意味合いの擁護。そして発達に見合う働きかけを行う教育が行われているという風に理解しました。



この話を伺って、私自身もピンときたことがあります。
育休退園問題の退園対象の中には、運動会の取り組みに参加できずに退園する子もいるそうです。仮に7月にママがお産をしたら、9月末に退園となるそうです。このことを懸念したあるママが役所に問い合わせたら、役所の担当課は「どうぞ運動会に参加してください」といったそうです。このママもそうだと思いますが、私も現役保育園ママなので、そこが腑に落ちないのです。



長女が0歳児クラスの頃を振り返ってみました。運動会の取り組みは約1か月前からクラス単位で行われます。0歳児クラスでも、運動会で取り組むわらべうたを担任が日々の保育の中に取り入れ、まずは一人ひとりが楽しめるように関わります。そして、徐々にお友だち同士で楽しめるように働きかけます。もちろん、運動会の前に、予行練習を行います(予行練習は保護者は参加しません)。



その取り組みに参加していない子どもが、当日だけ参加できるわけがないのです。「行事」は、当日限りの「イベント」ではないのです。いかに行政が「乳幼児保育の軽視」を行っているかが伝わってくるエピソードだと感じました。

周囲の子どもへの影響はどうなのか

次に、退園させられる子どもがいるクラスの子どもへの影響について、長谷川さんに伺ってみました。

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(退園乳幼児、新規入園の乳幼児が)コロコロ入れ替わると、保育内容が変わります。これは、4月に新規のお子さんがたくさん入園してくるのとは訳が違います。特に2歳児の子どもは、不安で泣いて入園してきます。3人退園し、3人新規の子どもが入ってきたとすると、その子たちが泣くと、周囲の子どもも不安になります。また、今まで一緒にすごしたAちゃんが退園すると、クラスの子も「なんでAちゃんいないの?」と不思議に思います。集団の輪が乱れます。

 

一般の人からすると、0,1,2歳児は友だちとの集団生活なんて成り立たないと思うかもしれません。しかし、0,1,2歳児でも集団の輪はできています。これでは保育保障が成り立たないのです。子どもには保育を受ける権利があるのに。

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私自身もこのお話を伺って思い出すエピソードがあります。うちの長女が0歳児クラスで、はいはいしていた時期です。まだ言葉はでていませんでした。ある朝、登園すると、先に登園していたお友だちのもとにはいはいで駆け寄り「あー」とにこにこ顔で言う娘。そしてそのお友だちも「うー」と娘の顔をみながら、はいはいで近寄っていました。このときに私は0歳児でもちゃんと友だちを意識し、挨拶しようという気持ちが芽生えるんだ!と感動しました。0歳児の娘から、大事なことを学ばせてもらいました。

退園させられた子どもへの影響はどうなのか

そして、一番気になる退園させられた子どもはその後どうなったのかということについて、長谷川さんに伺ってみました。

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退園させられたお子さんは、一時保育や園庭開放等で保育園に遊びに来ています。園庭でクラスの友だちとは遊べても、給食は元のクラスでは食べられないのです。つい先日までは当たり前のように自分のふとん、ロッカー、靴があったのに、退園したため、今は保育園に自分の籍がないためです。そのお子さんは退園してからチック症状がでたそうです。

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一般の人や行政は一時保育や園庭開放で遊べばいいじゃないと思うかもしれません。でも今までのクラスという居場所もないし、それゆえ今までの保育園での生活や遊びの質も異なるのです。一時保育は、一時保育用の部屋があり、一時保育専任の先生でしょう。つまり、自分が安心して過ごせる部屋でもなく、安心して関われる担任ではないのです。一時保育のお友だちも然りです。いつものクラスのいつものお友だちではないことに、子どもは混乱します。
 

園庭でいつもの友だちと遊べて安心していたその子が、給食の時間にいつもの部屋に行けなかった時の気持ちを考えると、切なくなります。おそらくその子の気持ちの中に、納得のできなさや混乱が生じたのだと推察します。パート1でも述べたように、その子どもは「ことばにならないことば」を、チックという「体で訴えることば」にしたのでしょう。

子どもの気持ち・子どもの世界を大人の都合で分断させてはいけないと思います。長谷川さんがおっしゃった「子どもには保育を受ける権利があるのに」という言葉がはじめはピンと来ませんでした。しかし、子どもの気持ちになって振り返ると、今の日本では【子どもの権利】が軽視されているように感じてしまいました。

 

長谷川さん、保育士の立場から子どもへの影響について、具体的にわかりやすく教えていただきありがとうございました。長谷川さんの保育士としての保育への熱い想いが伝わってきました。同じ専門職として、私も今後もこの問題について考えていこうと強く感じる時間でした!

まとめ

色々な視点で、育休退園問題を検証してみました。しかし、腑に落ちないことが多々ありました。そこで、国はどういう方針でいるのだろうと思い、調べてみました。すると、以下のような文言を見つけました。

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Q.育児休業取得時に、既に保育を利用している子どもがいて継続利用が必要である場合には、保育の必要性を認定することとされたが、「継続利用が必要である場合」とは、具体的にどういう場合を想定しているのでしょうか。

A.現行制度における取り扱いを踏まえ、保護者の希望や地域における保育の実情を踏まえた上で、①次年度に小学校入学を控えているなど、子どもの発達上環境の変化に留意する必要がある場合 ②保護者の健康状態やその子どもの発達上環境の変化が好ましくないと考えられる場合など市町村が児童福祉の観点から必要と認めるときを想定しています。

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先に述べた退園させられた子どものチック症状は、②の「その子どもの発達上環境の変化が好ましくない」から生じたと臨床心理士の立場としては断言できます。退園させられず、保育継続されたならその子にチック症状は出なかったと思います。



「その子どもの発達上環境の変化が好ましくないと考えられる場合」というのは児童福祉の視点に必要なことです。それは、子どもに疾病等があるということではありません。国もどこの自治体も、環境の変化が【子どもの心に不安や混乱を与え】子どもに好ましくないということを重々自覚してもらいたいものです。子育て支援拡充の現代社会の流れにおいて、この育休退園問題は逆行するものといえます。
 

もうこれ以上、退園して混乱する子どもが増えないことを願います。

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ひらきだ ゆき

ひらきだ ゆき 【臨床心理士 精神保健福祉士】

記事テーマ

カウンセラー通信:自分らしい楽しいお産と子育てをしよう 

初めてのお産・子育てって不安ですよね?でも大丈夫。ママが主体的であれば、赤ちゃんも力を合わせママとお産を頑張ってくれます。初めての母子での共同作業のスタートが主体的であれば、その後の育児もとまどうことはあっても、そのママらしい力が発揮でき、赤ちゃんも自己発揮できます。そのお手伝いを、カウンセラーの視点から楽しく具体的にさせて頂きます!

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