日本の美しい言葉と聞いてまず思い浮かぶのは季語。季節を表す美しい言葉です。
例えば今の季節なら、長月、中秋の名月、玄鳥去(つばめさる)、こぼれ萩・・・
和の暦で表現される、月の満ち欠けに関する呼び名や七十二候。手紙やスピーチの冒頭の時候の挨拶。これらは自然や四季を身近に感じながら過ごす日本人の美徳です。
季語の中に『虫時雨』とか『蝉時雨』という言葉があります。
日本人は虫の鳴き声を左脳でも聞く、数少ない民族だそうです。
右脳しか使われなければ単なる物音や騒音としてとしか聞こえない虫の鳴き声を、日本人は虫の声として聞いているそうで、右脳で感じた音を左脳で翻訳し、また右脳で感じるという作業を無意識でやっているのだそうです。
素晴らしいですね。日本人の高い感性から作りだされた季語なのですね。
私たち家族も子どもたちが小学生の頃、行楽に出かけた際に、短歌や川柳を作ったり、言葉遊びをしました。自分が感じたことを5・7・5や5・7・5・7・7とリズムよく作るのは、ゲーム感覚で楽しいものでした。字余りにならないように何度も指を折って言葉を数えます。季語も入れるようにします。すると、みんな、目を凝らし、耳を澄まして、風を感じ、匂い・・・まさに五感を研ぎ澄ますのです。ほとんどが、書き留めるにもいたらない、愚作ばかりでしたが、言葉をさがす作業は、自然や物事からメッセージを汲み取ろうとする粋な行いです。
俳句や短歌や川柳が今もなお愛され、次世代に残っていくことを願います。
言霊(ことだま)とは言葉の中にこもっていると思われた不思議な力。
そして、万葉集で日本は『ことだまのさきおう国』と記されています。これは『言霊の力で幸福のもたらされる国』という意味だそうです。(「新選国語辞典」より)
以前、こんなお話を聞いたことがあります。
同じ釜で炊いた3つのおにぎりを、一つは「おいしそう!ごちそう!大好き!」などプラスの言葉をかけながらにぎります。2つ目は、「まずそう!キライ!バカ!」などマイナスの言葉をかけてにぎります。そして3つ目は、何の感情ももたないようにして無言でにぎります。無視です。そして、同じ条件で放置したところ、最初に腐ったのは、何も声をかけずににぎったおにぎり、2番目は、マイナスの言葉を発しながら作ったおにぎりだったそうです。
科学的根拠もなく、このような話を信じるのは馬鹿げているかもしれませんが、この話を聞いた時、そうなのか・・・と納得してしまい、何だか得意気に子どもたちに話したくなりました。
このような感情は、私自身、言霊を信じているからなのだと思います。
日本人が結婚式やお葬式で忌み言葉に気をつけるのも、受験生に不合格を連想させる言葉を使わないのも、死について親子で話せないのも、言霊を信じている所以でしょう。
究極の愛の言霊は、生まれてくる子に授けられる名前だと思いませんか?
そこには名前という短い言葉や漢字に、深い意味や熱い思いが込められます。言葉の中にこもっている力を信じて命名されるのですから・・・人生で初めに受ける言霊です。
あなたの名前の由来はなんですか? ご両親の信じて願った短い言葉(名前)をひも解いた時、きっと幸を感じることでしょう。
そして、夢。
夢を描くことにも『言霊』を感じます。
野球のイチロー選手もサッカーの本田圭佑選手もテニスの錦織圭選手も、子どもの頃の作文に将来の夢をしたためていらっしゃいます。そして、その夢を現実のものとされてきました。不言実行ならぬ有言実行です。言葉の力で、自分の思いを確認して整理して温めて強くしてこられたのでしょう。言霊には発した言葉通りの結果を表す力があるのです。
そして、それは世界が注目する一流選手になれなくても、私たちにも共通します。
結婚式の誓いの言葉であったり、プロポーズであったり、運動会の選手宣誓であったり・・・
それらもまた、自分が放つ最強の言霊なのです。
子育てママさんたちは、座右の銘をお持ちですか?
私の座右の銘は、仏教の言葉で、母校の校訓でもあった『和顔愛語(わげんあいご)』です。
意味は深いですが、ここでは大ざっぱにいうと、「和やかな笑顔と優しい言葉を人に施す」
といったところです。
常に心に留めておいて自分を戒め励ます言葉なのですが、ついつい、一番身近な人たちには出来ないものです。
優しい言葉をいっぱいかけてあげたいのに、感謝の言葉を伝えるべきなのに、怒りすぎたり、イライラしたり、嫌味言ったり・・・。自分の未熟さにあきれてしまいます。
でも、言霊の力を借りて、和やかな笑顔で過ごしていきたいです。
日本にはこんなにも美しい言の葉が散りばめられているのですから・・・
参考
『新選国語辞典』 金田一京助・佐伯梅友・大石初太郎 編 小学館
『美人の日本語』 山下景子 著 幻冬舎
鈴木 麻奈美 【日本舞踊藤間流名取・NOSSインストラクター】
記事テーマ
グローバル時代において、和の精神、和の文化を持つことは、これから世界で活躍されるであろうお子さまたちの心のよりどころとなるでしょう。3年半のアメリカ暮らしで気付いた和の魅力、日々の暮らしの中にある和の素敵をお伝えしていきます。あなたの気付きとなりますように。お子さまたちの和のスマイルを育む毎日につながりますように。