日本一高い山、富士山。そして日本一大きい湖、琵琶湖。
この山と湖にまつわる伝説はご存知でしょうか?
手短に話すと・・・、
「近江の土を掘り富士山を作ったところ、その掘った跡に琵琶湖ができた。
しかし、その富士山、あともうひと盛りで完成!という時に、最後のひと盛りする土をうっかり落としてしまったので、頂上は平のままとなった。
その時に落とした土は三上山(みかみやま)となり、『近江富士』の愛称で親しまれている。」
といったものです。
似たような富士山をめぐる民話はご当地でも、数々残っているようですね。
そして滋賀県の近江八幡市にある『富士と琵琶湖を結ぶ会』は、この伝説に基づき、琵琶湖の水を富士山頂に奉納する『お水取り』と、富士山頂の霊水を持ち帰り琵琶湖に注ぐ『お水返し』の催しを恒例としているようです。
そんな2つの日本一の和の魅力に触れてみましょう。
その高さ3776mの勇ましく美しい名峰、富士山が、2013年6月、世界文化遺産登録に決定しましたね。
富士山の存在は古来より、神が宿る霊峰として崇められ、その美しさは美術や文学作品としても親しまれてきました。
そしてその姿は、富士山を見る場所、時間、季節、気象状況などによっても、よりいっそう輝きを増します。
晩夏から初秋の早朝に富士山が赤く染まる『赤富士』、山頂の雪が朝日や夕日で染まる『紅富士』、風のない日に富士五胡に富士山が映る『逆さ富士』、年に2回富士山頂と太陽が重なる『ダイヤモンド富士』、月が重なる『パール富士』、雲海に富士山の影が映った『影富士』、富士山の頂上にレンズ雲がかかった姿の『笠富士』などなど・・・自然がおりなすキャンパスは格別ですね。
また、愛でられてきたのは富士山そのものだけではありません。全国には『見立て富士』といって、富士の名を持った山が多数存在します。前出の近江富士も、そのひとつ。三上山(みかみやま)の見立て富士であります。その数なんと350以上もあるといわれ、見立て富士が存在しない都道府県はないそうです。あなたの地域には、なに富士があり、それはどんな言い伝えがあるのでしょう?
周囲235.2㎞、面積670.25k㎡で日本最大で最古の湖、琵琶湖。こちらも富士山同様、信仰の対象ともされてきたパワースポットです。
名僧最澄をも魅了した琵琶湖周辺には重要文化財に指定された薬師如来像は45もあり、全国一位だそうです。
近畿の水瓶という役割はもちろんのこと、レジャーや学習面においてもさまざまな魅力を持ちます。
レジャーといったら、ウインドサーフィンなどのマリンスポーツに加えて、『鳥人間コンテスト』の収録もここで長年行われています。
学習においては、県内の小学5年生が対象の『びわ湖フローティングスクール』があり、学習船『うみのこ』に乗り、琵琶湖を航海するお泊り合宿があります。琵琶湖ならではの体験学習です。
文学の世界でも、琵琶湖に魅せられ、和歌や俳句、能や民話など、美しい自然とともに語られてきました。松尾芭蕉の文学碑が数多く琵琶湖周辺に点在するのも、ここに芭蕉文学の土壌があったからでしょう。近年では万城目学の『偉大なる、しゅららぼん』が琵琶湖や竹生島を舞台に興味深く描かれています。映画にもなりましたよね。
そして、ぜひご紹介したい風景に、琵琶湖八景があります。名前を読み上げるだけでも、風情があり、イメージをかきたてられ、文字で景色を観ているような気にさえなります。
・月明 彦根の古城(げつめい ひこねのこじょう)
・涼風 雄松崎の白汀(リょうふう おまつざきのはくてい)
・新雪 賤ヶ岳の大観(しんせつ しずがたけのたいかん)
・煙雨 比叡の樹林(えんう ひえいのじゅりん)
・深緑 竹生島の沈影(しんりょく ちくぶしまのちんえい)
・夕陽 瀬田・石山の清流(ゆうよう せた・いしやまでらのせいりゅう)
・暁霧 海津大崎の岩礁(ぎょうむ かいづおおさきのがんしょう)
・春色 安土・八幡の水郷(しゅんしょく あづちはちまんのすいごう)
『近江八景』は南湖を愛でていますが、上記の『琵琶湖八景』は琵琶湖全体を対象にしたものであります。
琵琶湖もまた、富士山同様、見る場所、時間、季節、気象状況などによって、より一層の輝きを増すのです。
富士山と琵琶湖の魅力をざっと挙げてみましたが、当然、魅力だけの気付きではだめですよね。
しっかり目を向けないといけない問題が山積みになっているのを忘れてはいけません。
当初私は、「富士山が、とうとう世界文化遺産登録!この際、登ってみるか!」と浮かれましたが、「とうとう・・・」という認識は甘かったようです。
アルピニスト野口健さんによると、まだまだ準備が整っていないままの世界文化遺産登録を危惧されていますよね。ゴミ問題、入山制限、トイレの設置・・・まだまだ整えなければならない問題がありすぎて「とうとう・・・」どころではなく、むしろまだ早い状況だったのですね。
琵琶湖に関してもそうです。
環境保全は大きな課題です。外来魚や地球温暖化による生態系の影響。淡水魚介類やヨシ群落の保全。琵琶湖は湿地保全のための国際条約『ラムサール条約』に登録された国際的保全地域なのです。
また近隣県に立地する原発の問題もあります。事故が起こると琵琶湖は汚染され水の供給に影響を及ぼすことになるでしょう。
それらに目を背けず、知り、改善していかなければなりません。
『Mother Lake 母なる湖・琵琶湖 あずかっているのは滋賀県です』
これは滋賀県のキャッチコピー。
まったくその通りであると思います。私たちは、地球から、神から、あらゆる生物から、先祖から、これから生まれてくる命から・・・預かっているのです。そのことをいつも心に刻んでおかなければと思います。
母なる琵琶湖と父なる富士山に、守り守られて暮らして行くことが出来ますように・・・
最後に余談ではありますが、私ごと。
主人が転勤族のため、いくつかの土地で幼少期を過ごした我が子。父の故郷山梨に帰省しては富士山を仰ぎ、母の故郷滋賀に帰省しては、琵琶湖に佇んできました。今の時点での気付きはなさそうですが、きっとこの先、父方の祖父母に富士山を重ね、母方の祖父母に琵琶湖を重ねる時が来るような気がします。
そして私自身は、滋賀県のキャッチコピーを見習って、『子どもは社会のあずかりもの』と自分を戒め、大切にしっかり育て、子離れに備えようと思います。
まだ少し、時間が必要ですが・・・
参考文献
『富士山の歴史(晋遊舎ムック)』 晋遊舎発行
『湖国と文化 第120号夏』 (財)滋賀県文化振興事業団発行
『湖畔 琵琶湖の楽しみ方』 高野 弘著 青山舎発行
『近江の文学』 滋賀県高等学校国語教育研究会編 京都カルチャー出版発行
『偉大なる、しゅららぼん』 万城目 学著 集英社発行
滋賀県公式ホームページ www.pref.shiga.lg.jp
鈴木 麻奈美 【日本舞踊藤間流名取・NOSSインストラクター】
記事テーマ
グローバル時代において、和の精神、和の文化を持つことは、これから世界で活躍されるであろうお子さまたちの心のよりどころとなるでしょう。3年半のアメリカ暮らしで気付いた和の魅力、日々の暮らしの中にある和の素敵をお伝えしていきます。あなたの気付きとなりますように。お子さまたちの和のスマイルを育む毎日につながりますように。