着物っていいですよね。季節感を楽しんだり、礼節や遊び心を盛り込んだり、母や祖母から受け継ぐ伝統とか、ハレの日の思い出とか、日本文化の発信にもなるし、着ると気持ちがシャンとしたり華やいだり・・・その魅力は私が語らずとも、みなさん、お気づきだと思います。しかしながら、
「着物、お嫁に持ってきたのだけどね・・・」
「祖母や母のがあるのだけどね・・・」
「着付け、昔、習ったことあるのだけどね・・・」
「いつか着る余裕が出来たらね・・・」
と、つれないお返事が返ってきます。なぜ着物の良さに気付きながら、私たちはそれを遠ざけてきたのでしょう?
高価だから。着ていく所がないから。着付けが出来ないから。何を着ればいいのかわからないから。準備、後片付けが大変だから。動きにくいから。主にこんなところでしょうか。
確かに洋服のようにシーズンごとに買ったり、洗濯機でジャブジャブ洗ったり出来ないし、着るのも選ぶのもお手入れも難しそう。着物や帯には格があり、わきまえなければならないTPOがあり、マナーやセンスも問われる。第一礼装とは・・・おはしょりの長さは・・・襟の抜き具合は・・・、・・・、あーもう面倒くさい!やーめた!と、なりますよね。
それでは、もったいない。せっかくの美しい民族衣装。なんとか受け継いでいきたいものです。昔は誰もが着ていた着物。でも今はハレの日(節目の日)ぐらいしか着ない人が多いですよね。普段着馴れない着物を、いきなりあらたまった席で着るのですもの。それは堅苦しく敷居が高く、大騒ぎになってしまいますよね。もっと、わかりやすく、身近なものになればいいのにと思います。
そんな願いを込めて、今回は、「えー?そんなのでいいの?」と、ゆる~く考えてもらえるようにお話ししたいと思います。着物に詳しい方や真摯に着物と向き合っていらっしゃる方からは、批判されそうですが、まずは、広く開いた着物への扉として、入っていただけたらと思います。
着物の種類を大ざっぱに分類してそれを私の洋服感覚に置き換えてみますと、
『留袖』は式典の時にだけ着る制服とでもいいましょうか。留袖に入れられた紋はさしずめ校章といったところです。私は結婚した先の家の章(紋)を入れた家の制服(留袖)と日本舞踊の流派の章(紋)を入れた名取の制服(留袖)を持っていて、それらを一族の結婚式や会で着ます。
『訪問着・付け下げ』は、パーティや友人の披露宴に出席する時に着るスーツやドレスです。
『色無地・小紋』はランチとか映画とか観劇とかちょっとしたお出かけに、ワンピース感覚です。
『紬』は普段着。デニムとかニット感覚。といってもジーパンの中にはビンテージものやブランドものがあるように、紬にも『結城紬』や『大島紬』のような高価なものもあります。
『浴衣』は水着とまでは行きませんが、リゾート着といった感覚です。
帯は4種類。『袋帯』『名古屋帯』『半幅帯』『兵児帯』。
『袋帯』はあらたまったおでかけ、よそいきで、二重太鼓に結びます。
『名古屋帯』はカジュアルなお出かけでお太鼓は一重。
『半幅帯』は普段着で結び方は比較的自由。アレンジが効いて簡単。
『兵児帯』やわらかい素材で主に子ども。蝶々結びでOK。
と、こんな感じです。本当におおざっぱですが。まずはこれくらいのくくりでいいのではないでしょうか?
さあ、敷居の高かった着物も少しは身近になってきませんか?でも誠実でまじめな日本人気質のみなさまは、「いつか着付け教室に通って、着付けをマスターしたらいよいよきものデビューだ!」なんて思っていませんか?
そんないつかは、なかなかやってきません。習うより慣れろです。もちろん習えばいいのですが、全部マスターしてから!というのでなくともいいのです。習いながら慣れろです。インプットしながらアウトプットです。
そして、今、着物デビューの最高の時期がやってきます。そう『浴衣』です。これなら、持っている人も多く、新調するにもリーズナブル!襟もつけなくていいし、長じゅばんも省ける。帯に関しては半幅帯で簡単。ちゃんと基本通り結べなくともアレンジしているように誤魔化しがきく。お手入れも家でお洗濯、アイロンでもいいのです。花火やお祭りにとどまらず、映画、買い物、ショッピング、気軽に着て出かけましょう。
そんなこんなをしているうちに、ここはもっと締めなきゃなとかここが苦しかったとか学習したり、しぐさとか立ち振る舞いを覚えたり、街ですれ違う人の着物に目がいったり、また自分も見られてることに意識を高めたり、実際に着て歩くことにより、さまざまなことを吸収できることでしょう。
そして秋になり浴衣を脱ぐ頃、自信を持って、今度は本格的に着物と向き合えばいいのです。さあ、是非、この夏、着物デビューしてみましょう。
京都は本当に着物が似合う街。
花街の舞妓さんや芸妓さん、料亭や呉服屋さん、和のお仕事についている人だけではありません。最近では若いカップルも観光客も、着物姿で楽しく歩いている姿をよく見かけます。
京都では行政・商工会議所、和装関係団体が一体となってきもの姿の人を増やす取り組みをされています。その一つとして、『きものパスポート』というものを発行されています。このパスポートを利用することによって、ホテルやタクシー、美術館や飲食店、雑貨店、数々の協力店で特典を受けることが出来ます。また、着物レンタルも充実していて、着くずれを無料で直してくれるところ、場所を提供しているところもあります。着物でおでかけしたくなるような仕組みと安心を作って、観光客をおもてなしされています。
素晴らしい取り組みですね。着物デビューにはもってこいです。そこで、ベテラン着物さんへのお願いです。どうか、温かく見守って下さい。子連れのなんちゃって舞妓さんを見ても、丈が極端に短い着物でも、帯が歪んでいても、昼間に浴衣で出かけても、そこは、大目に見て下さい。
そして、これからも素敵なお手本でいてください。私たちが流行と伝統のはざ間で迷子にならぬよう、道しるべとなって下さい。着物事始めのみなさんが、はんなりと歩いていけるその日まで。
京都きものパスポート ご利用と入手方法について
鈴木 麻奈美 【日本舞踊藤間流名取・NOSSインストラクター】
記事テーマ
グローバル時代において、和の精神、和の文化を持つことは、これから世界で活躍されるであろうお子さまたちの心のよりどころとなるでしょう。3年半のアメリカ暮らしで気付いた和の魅力、日々の暮らしの中にある和の素敵をお伝えしていきます。あなたの気付きとなりますように。お子さまたちの和のスマイルを育む毎日につながりますように。