移ろう季節を感じさせてくれるのは自然界のものだけではありません。人間が生みだした和菓子もまた、季節や行事に密接に関係し、暦を彩っています。ちょっと和菓子のお店を覗いてみて下さい。日本独自の色や形で作られた和菓子たちが上品に並んでいます。
さあ、そんな和菓子の暦を見てみましょう。
1月・・・花びら餅
2月・・・鶯餅
3月・・・ひし餅
4月・・・桜餅、花見団子
5月・・・柏餅、ちまき
6月・・・水無月
7月・・・若鮎、土用餅
8月・・・竹流し羊羹、おはぎ
9月・・・月見団子
10月・・・菊饅頭
11月・・・吹き寄せ
12月・・・雪餅
花や動物、自然をモチーフに、また日本の文様が焼印になった和菓子には、日本人の季節を愛でる心や伝統を重んじる心が垣間見られます。
年中行事の際、神仏に供え物をし、それらを分け食べる習慣があり、『節句』は本来『節供』と書いたと言われています。餅は霊魂や稲作の象徴として神聖視され、小豆は赤い色が厄を払うとして尊ばれました。おはぎや餡ころ餅がお彼岸やお盆に用意されるのも、ここに理由がありそうですね。
和菓子の見た目の美しさは視覚を満足させ味覚は云わずと知れたことでしょう。
嗅覚においては、甘い香り、こうばしい香り、優しい香りといった抽象的な香りから、柚子や生姜の香りなど素材が持つ具体的な香りを感じ取ることもあります。
聴覚においてはどうでしょう? 和菓子を食する時の音? そこはよくわかりませんが、それぞれに命名されたお菓子の名を耳にする時、季節や風情を感じ取ることが出来ます。
『みぞれ』に涼を感じたり、『吹き寄せ』に秋風が浮かんだり、『桜餅』に春を感じたり・・・
『若菜』や『松風』といった源氏物語の帖名には古典とのつながりから風情をも感じます。
そして、触覚。
ところてんのツルッとしたのど越し、お煎餅のパリッとした歯ごたえ、大福のもちもち感、らくがんのコリッ、わらび餅のプルンプルン・・・さまざまな舌触りを感じます。
また手作りすることによって、より触感が深いものとなります。
おはぎや餡ころ餅は手作りで・・・というご家庭も少なくないでしょう。
お子さまも是非ご一緒にやってほしいものです。
こねたり、丸めたりは泥んこ遊びや粘土遊びの延長のようで、きっと楽しまれることでしょう。
味覚だけでなく触覚もプラスされた感覚は、より深いものとなるでしょう。
かく言う私も、味覚や舌による触覚だけでは飽き足らず、京都の老舗和菓子やさんに手作り体験に行ってまいりました。
伝統的手法に基づき、職人さんが教えて下さりながら、生菓子を仕上げるといったものです。
今の季節の風物詩、『さくら』と『水鳥』を作りました。
といっても、煉り切りといわれる生地は、準備されていたので、ただ形どっただけで、作ったというにはあまりにもおこがましいのですが・・・
創業享和3年(1803年)の伝統京菓子の和菓子作りに触れられる時間は、五感をフルに使っての貴重な体験でした。
当日、ご指導していただいた職人さんは若い女性で、出身は関東。なんと中学の卒業旅行で訪れた京都でこの店の和菓子手作り体験をされたのをきっかけに、製菓の道に進まれ、この店の職人さんになられたそうです。
和菓子とは季節を五感で愛でたもの・・・
そして第六感を『予知や霊感』という意味はひとまず置いておいて、
『五感を越えるもの。理屈では説明し難い鋭く物事の本質をつかむ心の働きのこと』
ととらえるならば、まさしく和菓子は第六感をも作動させるのではないでしょうか?
なぜなら、そこには、日本の本質が見てとれるからです。
まだ中学生だった職人さんも、五感で触れた体験で、鋭く若い感性でもってなにか本質をつかんだのではないでしょうか?和菓子への第六感が研ぎ澄まされた体験だったのかもしれませんね。
鈴木 麻奈美 【日本舞踊藤間流名取・NOSSインストラクター】
記事テーマ
グローバル時代において、和の精神、和の文化を持つことは、これから世界で活躍されるであろうお子さまたちの心のよりどころとなるでしょう。3年半のアメリカ暮らしで気付いた和の魅力、日々の暮らしの中にある和の素敵をお伝えしていきます。あなたの気付きとなりますように。お子さまたちの和のスマイルを育む毎日につながりますように。