前回の予防編でお留守番はケージの中でとお伝えしました。クレートトレーニング(ケージを使ったしつけの方法)も誤飲を防ぐために大事なしつけの一つですが、誤飲の予防にも使える、飼い主も犬も楽しみながらできるしつけをもう一つご紹介します。
お子さんが1歳前後のときに、「どうぞ」「ありがとう」の遊びにはまったことを覚えていますか?さらに大きくなると「交換」の概念が出てきたことと思います。トレードとは、犬が口にくわえているものと、他のものを交換してもらうことです。子どもだけでなく、実は犬も交換が大好きです。
子どもが手に持っている物を差し出す代わりに、犬にはくわえているものを口からぽとりと落としてもらいます。口にくわえているものよりももっと魅力的なものを見せて、交換してもらいます。ここで大事なのは、くわえているものを取り上げるのではなく、交換することです。
まず大前提として、自分の犬がなにを好きなのか、お気に入りを把握します。食欲旺盛な子ならフードまたはおやつ、食べ物にあまり執着しない子ならおもちゃもいいでしょう。お気に入りのものをポケットにしのばせて、ロープトイを使ったひっぱりっこ遊びやボール投げをします。ひっぱりっこでは、ロープなどを犬がくわえてひっぱっているときに、ボール投げでは、ボールを持って自分のそばに戻ってきたときに、「交換」「トレード」「離せ」「オフ」などのコマンドを言ってから、犬のお気に入りを見せます。そうすると、犬は口を開けてくわえていたロープやボールを落とすはずです。
犬がくわえているものを落としたら、「お利口さん」「グー」「グッドボーイ(ガール)」などの褒め言葉を言ってから犬にお気に入りを渡します。その後、再びロープやボールを犬に与えて遊ばせます。これを何度か繰り返すと、犬はコマンドの意味を理解します。
しつけで大事なのは、コマンドを1回言ったら、必ず従わせることです。トレードのトレーニングでは、必ずくわえているものを離させることです。そのためには、最初に犬がくわえているものは犬があまり執着していないもののほうがやりやすいでしょう。さらに、トレードしてもらうものは、最初にくわえているものよりも、魅力的なものでなければなりません。
何度もコマンドを言って、最終的に犬が従うのは、犬が指示に従うタイミングを決めていることになります。大事なのは、「離せ」と言ったら、条件反射的に必ず離させることです。そのために自分の犬の優先順位を把握しましょう。また、トレードしたものを、再度犬に与えて、飼い主が自分にとって大事なものを取り上げるのではないということを理解してもらうことも大事です。
トレードのコマンドを犬が理解したと思ったら、様々なタイミングでこのコマンドを出してみます。犬が離したらほめてご褒美を与えます。ある日、犬が飲み込んでは困るものをくわえていたら・・・そう、「トレード」のコマンドを出すのです。
トレーニングがしっかりできている犬なら、くわえたものを取られまいとして飲み込むのではなく離すはずです。もちろん、おいしいものはくわえてからすぐに飲み込んでしまうでしょうから、前回の予防がなによりも大事なのは当然です。
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。