蚊が媒介するデング熱が東京で発生して話題を呼んでいます。ペットにも蚊が媒介する重大な病気があります。それが、フィラリア症で、犬の寄生虫病として有名です。日本の犬の感染率は40%ともいわれています。蚊が動物の血を吸う時、フィラリアの幼虫が唾液腺から動物の表皮に出て、吸い跡から皮下に侵入します。その後、寄生動物の体内で成長し、やがて肺の血管に達します。犬では慢性心不全の症状を呈します。
また、フィラリアの成虫が心臓内に侵入して溶血を起こした場合は、急激に体調が悪くなり、成虫を緊急手術で取り除く必要があります(大静脈症候群)。本来の宿主である犬の予防は発達していて、年に一度の注射、月に一度飲ませる錠剤、チュアブル(おやつタイプ)やゼリータイプの薬、月に一度皮膚につけるスポットタイプの薬などがあります。犬では血液検査で簡単に感染を診断することができます。治療は前述の手術の他は心不全に対する対症療法になります。
日本の猫の10匹に1匹が感染しているといわれています。感染経路は犬と同じです。ただ、本来の宿主である犬と違って、猫の場合、フィラリアはうまく適応できず、幼虫から成虫にまで成長することは稀です。しかし、この幼虫が猫の呼吸器に悪影響をもたらし、咳・嘔吐・食欲不振といった症状を引き起こします。幼虫が成虫となり、猫の体内で死ぬと重篤な肺障害や突然死をもたらすこともあります。
犬と違って猫ではフィラリア症の診断がとても難しく、原因不明で突然死した猫を解剖してやっとフィラリア感染に気づくということがあります。また、治療法が確立していないため、予防が重要です。予防法は犬に準じますが、猫に使える薬は犬よりも少ないです。
実はフィラリアは人にも感染します。日本では約100例の報告があります。感染経路は犬と同じです。猫と同様に幼虫が呼吸器に悪影響をもたらし、咳・痰などの呼吸器症状を呈し、レントゲン検査で銭型陰影を示します。肺癌や肺結核を疑って肺を切除したときにみつかります。皮下や腹腔に腫瘤を形成することもあります。
犬の予防は積極的に勧められます。犬を予防することで、結果的に人の予防につながります。また、猫の場合も、下記に当てはまる場合は予防を考えましょう。
①家の中で蚊を見たことがある
②室内飼育だが、外にも行く
③近所に犬を飼育している家がある
地域の気温によって、予防時期が異なります。フィラリア症はほぼ100%予防することができる病気です。詳しくは動物病院にご相談ください。
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。