一昔前の猫たちは、飼い猫であっても、屋外を自由に闊歩して、散策をしたり、狩りをしたり、猫の集会をしたりと自由気ままに暮らしていました。しかし、現代の、特に都会の猫たちは、交通事故や怪我や病気の予防という点から、完全室内飼育を推奨され、生まれてから一歩も外に出たことのない子がほとんどです。健康管理の面からはとてもいい飼育方法ですが、精神的にはストレスを感じている猫も多いのではないでしょうか。実はこれが問題行動の原因になることが多いのです。
不妊手術をしていない雌猫は、たいていの場合、春と秋の発情シーズンになると、大きな声で鳴いて雄猫を求め、外に出たがるようになります。また、発情している自分の存在を知らせるために、あちこちに排尿します。雄猫は発情した雌猫のフェロモンに誘われて、外に出たがるようになります。外に出ると、雌猫をめぐって雄同士で激しい喧嘩をします。これらは本能的な行動なので、不妊手術をしていない猫を外に出さずに飼うのは、猫にも人にも大きなストレスとなります。
猫は半分身体がうもれるような籠や箱で休憩するのをとても好みます。一時期有名になった、猫鍋がその典型です。さらに、周りを見渡すことができる高い場所は、猫に安心感を与えます。家具の上など高いところに、猫専用のベッドや籠を置いてあげましょう。子どもの手が届かないというメリットもあります。
人と同様に、猫もトイレに落ち着いて入ることを望みます。人の往来の少ない場所にトイレを設置してあげましょう。隣で洗濯機がガタガタゆれたり、子どもに脅かされたりすると、トラウマになって、そのトイレを使ってくれなくなることもあります。ゆっくり落ち着いて用を足すことができる場所にトイレを設置してあげましょう。
また、猫はとても清潔好きです。汚れたトイレ砂は最低1日に1回は取り除き、1週間に1回はトイレ砂を全部交換しましょう。プラスチック製のトイレは臭いがしみつきやすいので、定期的に買い換えてあげましょう。不快なトイレは排泄の失敗の原因となります。
爪とぎは猫にとって、視覚面と嗅覚面で大事なマーキングツールです。見た目のアピールはわかりやすいですが、実は、指の間から出るフェロモンも、爪とぎ跡について、嗅覚面でのアピールとなります。ダンボールや布、ヒバの皮など、それぞれの猫が好む素材の爪とぎを垂直に設置してあげましょう。休息後にストレッチもかねて爪とぎをすることも多いので、休息場所の近くにおいてあげましょう。嫌いな素材の爪とぎしかなかったり、適切な場所においていないと、柱や壁で爪とぎをするようになってしまいます。
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。