Animal Welfareの最後は正常な行動を示す自由です。実は問題行動には、その動物にとって正常な行動が人間にとって問題であるものも含まれます。単純に行動自体が問題であるものもあれば、その行動が多すぎたり少なすぎたりするために問題化しているものもあります。また、正常な行動を取ることを制限したために、ストレスがたまって、問題行動を起こすようになることもあります。
飼い主に愛犬との暮らしで困っていることを挙げてもらうと、吠え、飛びつき、特定の場所で排泄しないということが挙がってきます。実はこれらは犬の正常な行動で、犬に悪気はありません。ただ、正常な行動だからといって、人間の常識と犬の常識は異なり、犬に好き勝手にさせていると、人間も犬も不幸になってしまいます。
日本で多く飼育されている小型犬である、トイプードルやチワワ、ポメラニアンはよく吠える犬として有名です。彼らは、本来別の仕事をしていた犬を、王侯貴族が可愛がるために小型化、ブランド化した犬種で、別名シンデレラドッグと言われます。もう一つの目的として、寝室内で番をするベルドッグという役割があり、そのため、ちょっとした刺激に反応して吠えやすくなっています。
また、人気犬種の一つである、ミニチュアダックスフントは、アナグマの巣に入って吠えてアナグマの追い立てていたため、身体のわりに、鳴き声が大きいです。吠えは集合住宅での苦情として多く挙げられます。たとえ、ペット可のマンションであっても、過剰な吠えに対するクレームが出て、飼い続けることが困難になったり、引越しを余儀なくされることも多いです。
犬が吠えないことはないのは自明の事実ですが、正常な行動である吠えも多すぎると問題行動とされてしまいます。同じ犬種であっても、小さな子どものいるにぎやかな家庭の犬は刺激も多く、吠えやすい印象があります。老夫婦だけの穏やかな家庭で飼われている犬は大人しいことが多いです。
また、小型犬ゆえに多頭飼育されることも多いのですが、そうなると、同居犬が吠えるのにつられて吠えるため、コントロールが難しくなります。実は犬が吠え始めるのは生後6~8ヵ月で、1歳を超えると爆発的に吠えるようになります。一番多いのはインターホンに反応して吠えることです。インターホンが鳴ると、知らない人が来て、怖い思いをし、吠えるといずれ帰ってしまうことから、犬は自分が追い払ったと思って、ますます吠えるようになります。すなわち、犬にとって嫌なものがなくなるという負の強化がされます。
さらに、犬にとって、吠えるという行為は、人間がカラオケで大声を出すのと同様に、すっきりする効果があり、何もご褒美がなくても、勝手に強化されてその行動は増えていきます。これを防ぐためには、子犬が家に来たときから、インターホンが鳴ったら、フードやおやつを与えるようにします。そうすると、インターホンに吠えるのではなく、飼い主のもとにきて、ご褒美を待つようになります。そうなると、飼い主はおすわりやハウスなどのコマンドを出せばいいのです。
興奮したら飛びつくのは犬の正常な行動です。飼い主に対する愛情表現の一つとも捉えられます。小型犬が飛びついても、大人はびくともしませんし、むしろかわいらしい印象を受けるかもしれません。ところが、相手が小さな子どもだったら、飛びつかれることで、バランスを崩し、転んでしまうかもしれません。大型犬になると、パワフルなため、大人でも転んでしまいます。
飛びつかれることに慣れている家族に対してであれば、遊びやコミュニケーションの一つかもしれませんが、犬に慣れていない人にとって、飛びつかれるのは恐怖そのもの。運悪く怪我をさせてしまえば、飼い主の責任を問われてしまいます。これは、しつけで解決することができます。犬が飛びついてきたときには無視したり、別室に行ったりして、犬にとっていいことがないようにします。犬が「あれっ」と思っているようだったら、「おすわり」のコマンドを出してすわらせ、従ったら、褒めて遊んであげます。
飼い主が帰宅したときに興奮して飛びつく犬に対しては、しばらく無視して、帰宅後の片付けなどをして、犬が落ち着いたら呼び寄せて構ってあげるようにしましょう。
犬にとって排泄は自分の存在を他の犬に知らせるというマーキングの意味を持ちます。したがって、トイレトレーニングをしなければ、室内のあちこちに排泄するのは当然のことです。また、散歩のときに、あちこちに排尿したり、散歩に行かないと排便をしないというのは、正常の行動です。
トイレトレーニングの大原則は失敗させないことです。排泄回数が多い子犬の時期に、よく観察して排泄のタイミングをつかみ、トイレに誘導することで失敗を防ぎます。最初のうちはあちこちにトイレを設置して(ペットシーツを敷くだけでOKです)、アクセスしやすいようにしましょう。また、ペットシーツと似た感触のカーペットやタオルなどは撤去したほうが、犬の学習が早いです。
散歩のときに便を持ち帰るのは言うまでもなく飼い主のマナーです。最近では、ペットボトルに水を入れて持ち歩き、排尿後に水をかけることも一般的になってきています。
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。