今回はペットに恐怖や絶望を与える典型的なものである、罰について述べます。
子どものしつけにおいても、罰には賛否両論ありますが、人間よりはるかに小さな存在であるペットを罰すると、大きな恐怖や絶望を与えます。
ここでいう罰には、以下のようなものがあります。
①大声でどなりつける
②体罰を与える(たたく、ける)
③ひっくり返してお腹を押さえつけ、無抵抗を強制する(アルファロール)
④降参するまでマズルをがっちり握る(マズルコントロール)
⑤チョークチェーン、ピンチカラー、電気ショックカラーの使用
問題行動を罰で治すのは、実はとても難しいのです。
アメリカ獣医動物行動研究会の宣言から抜粋します。
(http://avsabonline.org/resources/position-statements)
①ペットに「その行動はいけない」と理解させるには、問題となる行動が起こって1秒以内、少なくても他の行動(飼い主を見る、前足を一歩踏み出すなどすべての行動)をペットがとる前に叱る必要があります。遅れると、ペットは罰の理由がわかりません。つまりただの虐待になってしまいます。
②さらに、遅れて罰が与えられると、攻撃を起こしたり、すでに攻撃をしているなら悪化するかもしれません。これは、罰を逃れるための先制攻撃なのです。
③罰はその行動をすぐにやめさせる強さが必要です。躊躇することなく、しかも④に書くようにペットを傷つけることなく、です。弱い罰からはじめ、少しずつ罰を強くしていくと、ペットは罰になれていきます。その結果「効果的な罰=動物虐待に結びつく強い罰」になってしまいます。
④罰の与え方が不適当だと、病気や怪我の原因になります。たとえば、チョークチェーンにより、皮膚・気管の障害、神経の障害によるホルネル症候群、致死性の肺水腫、緑内障の悪化などをもたらす可能性があります。私の住む都市では、強すぎるマズルコントロールにより、ショックを起こして夜間救急病院に運び込まれる子犬の報告も数件相次ぎました。
⑤問題行動を罰したり、罰しなかったりすると問題行動はひどくなります。いつもしかられるペットにとって、しかられないことはごほうびになります。次は罰せられないかもしれない(ごほうびをもらえるかもしれない)という心理が働き、問題行動が複雑化します。
⑥さらに、問題行動を罰したり、罰しなかったりすると飼い主との絆が壊れてしまうかもしれません。なぜなら、ペットは飼い主の取る行動を予測できないために混乱し、不安を募らせるようになるからです。
⑦もともと怖がりな個体は、罰せられること自体に強い恐怖感を抱くでしょう。このような個体は、罰が与えられた時の周りの音やものに対しても恐怖感を持ち、びくびく、おどおどするようになってしまうかもしれません。
⑧罰を使って恐怖刺激を抑えると、歯をむく、うなるなどの警告なしに、即座に激しく噛みつくようになります。これは罰せられるのが嫌でぎりぎりまで耐えるようになり、もうこれ以上我慢できないくらいに恐怖がたまった時、爆発的に攻撃するからです。
まとめると、問題行動をひどくしない罰の使用方法は、問題行動が起こる度に毎回必ず、1秒以内に、適切な強さで、正しい方法で、ペットを傷つけることなく与え続けることなのです。また、怖がりな個体や恐怖攻撃を起こしている個体には絶対に使ってはいけません。
これでもまだ、罰を使いますか?
まず、ペットが問題行動を起こさないための方法を考えてください。つまり、しからなくてもよい状況を作ることに専念してください。もちろん、それでも、問題行動が起こるかもしれません。そんな時、行ってよい唯一の罰は「無視」です。その場を離れること、ただそれだけです。罰を与えることによって問題行動が今よりひどくなるのを避けるためです。先に述べたように、適切に罰を与えることはとても難しいからです。
実はこの内容は、トリプルPといわれる、Positive Parenting Program(前向き子育てプログラム)にも共通しています。トリプルPに出てくる、子どもを叱らなくてよいように環境を整備することや子どもの叱り方。行動治療を学んだ後、育児を通してトリプルPを知った私は、ペットのしつけも、育児も、初めのうちは共通する部分もあると、妙に納得したのを覚えています。
ペットにも、子どもにも、適切なしつけができるといいですね。
アメリカ獣医動物行動研究会の宣言
http://avsabonline.org/resources/position-statements
トリプルP Positive Parenting Program(前向き子育てプログラム)
http://www.triplep-japan.org/parents02.html
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。