今回は、ペットを恐怖から解放する方法の一つとして、クレートトレーニングをご紹介します。
クレートとは金属製やプラスチック製の檻のことです。檻と聞くと単に犬を閉じ込めておくもので、その中に犬を入れるのはかわいそうだ、と思う人がいるかもしれませんが、犬を外で飼うことが一般的だった時代にも、雨風をしのいで休息する犬小屋があったように、犬にとってクレートは安全で安心できる暖かい巣のようなものです。これは、犬の祖先である狼の巣を考えるとうなずけると思います。
クレートトレーニングがしっかりできていれば、「犬嫌いのお客さんが来たときの定位置にできる」、「留守中の不安の軽減、破壊行動の予防」、「入院やペットホテルに預けるときの犬のストレスが最小ですむ」「ドライブ中の安全が確保できる」など多くのメリットがあります。
子どものいる家庭では、「子どもが小さいときのいたずら予防」、「食べこぼしを拾い食いすることの予防」、「子どもの友だちが遊びに来たときの隔離場所にできる」などのメリットも加わります。
私の考える最大のメリットは「分別がつかない子どもからの避難場所になる」ということです。小型犬が増えている現代、怖がりの犬も増えていると感じます。小さな子どもは犬には予測できない動きをするので恐怖を与える存在です。安全地帯としてのクレートはとても大事です。
反面教師になりますが、はいはいを始めた頃の我が家の長女にとって、愛犬のクレートはとても魅力的な空間だったようで、扉を開けておくとよく侵入してベッドに座っていました。愛犬は追い出されてしまって困り顔。長女を回収すると、すぐにクレートに戻るので、扉を閉めてあげるととてもほっとした顔をしていました。
クレートは犬がその中で体の向きを変えられ、快適に立ったり座ったりするのに十分な大きさ(犬が立ち上がったとき頭がつかえない程度の高さ)の物を選びましょう。
もし頻繁に犬を車に乗せるのなら、家用と車用の二つのクレートを用意すると便利です。
まずクレートの中に犬が好んでいる敷物、毛布、飼い主の臭いが染み付いている古着などを敷きます。クレートのドアを開けた状態で紐をしっかり固定して保ちクレートに犬が自由に出入りできるようにします。
クレートに入るのを嫌がる犬にはクレート内でフードやおもちゃを与えましょう。勝手に犬がクレートに入って休んでいることがあれば、優しく声をかけてほめてあげるとよいでしょう。
犬が完全にクレートに慣れたら、クレートの中に入るように命令のコマンド「ハウス」をつけていきます。「ハウス」と言って誘導し、従ったらごほうびをあげましょう。
次に、犬がクレートに入ったらフードやおもちゃを与えて扉を閉め、ほめてすぐに扉を開けて出します。これを何度も繰り返し、徐々に扉を閉めておく時間を長くしていきます。散歩や運動後の犬が落ち着いているときを見計らってこの訓練をするといいでしょう。
はじめのうちは「ハウス」といったコマンドが留守番を意味しないように注意しましょう。また、決して罰としてクレートを使用しないようにしましょう。
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。