名前に犬とついていますが、ほとんどの哺乳動物に感染する病気です。
感染した動物は攻撃性を示し、その動物に咬まれることで唾液中のウイルスが感染します。
人から人への伝染はまずありません。
世界では年間約5万5千人の死者が出ており、3万人以上がアジアにおいてです。
2013年7月16日に、台湾で52年ぶりに3匹のイタチアナグマの感染が報告されて話題になりました。
台湾で最後に感染が確認されたのは、人が1959年、動物が1961年です。
日本で最後に感染が確認されたのは、人が1954年、犬が1956年です。
なんだか似ていると思いませんか?
また、日本では、2006年にフィリピン渡航中に犬に咬まれて狂犬病に感染した男性が
日本に帰国後発症して亡くなった例が2例報告されています。
長い潜伏期(犬猫:3週間、人:1~3ヶ月)の後、神経症状を呈し、
その後昏睡に陥ったり、突然死亡したりします。
具体的な症状としては、動物では狂騒型と麻痺型と言われるタイプがあり、
狂騒型では、極度に興奮し攻撃的な行動を示します。
また、麻痺型では後半身から前半身に麻痺が拡がり、食物や水が飲み込めなくなります。
その後、死亡します。
人では、強い不安感、一時的な錯乱、水を見ると首(頚部)の筋肉がけいれんする(恐水症)、
冷たい風でも同様にけいれんする(恐風症)、高熱、麻痺、運動失調、全身けいれんが起こります。
その後、呼吸障害等の症状を示し、死亡します。
狂犬病疑いの動物に咬まれた場合、傷口を洗浄し、ヒト狂犬病免疫グロブリンやワクチンを6回程度接種しますが、発症予防効果は100%ではありません。
医療技術が発展した現代でも、発症した場合は、効果的な治療法がなく、
2から6日間の経過で、ほぼ100%死亡します。
動物の治療はせず、死ぬのを待つのみです。
知人のタイ人の獣医師によると、タイは清浄国ではないので、獣医師は皆狂犬病ワクチンを打っており、
狂犬病が疑われた動物は、頑丈な檻に隔離し、2週間ほどすれば、発症して神経症状を呈して死亡するので診断できるということでした。
既に死亡している動物の場合は、解剖して脳を検査することで診断できます。
予防は狂犬病ワクチンの接種のみです。
日本では、狂犬病予防法により、飼っている犬の登録および毎年の狂犬病ワクチンの接種が義務付けられています。
しかし、日本で飼育されているすべての犬が登録およびワクチンの接種をしているわけではありません。
台湾の例を考えると、海外渡航や動物の輸出入が盛んになっている現代、
日本でも狂犬病が発生する可能性は決して低くはありません。
犬を飼っている場合は、動物病院に相談して、積極的にワクチンを接種しましょう。
海外に渡航する際は、特に狂犬病常在国においては、むやみに動物に手を出さないようにしましょう。
小さな子どもは警戒心なく、動物に手を出したり、
また、不意な動きで動物を驚かせて咬まれてしまうことも少なくありません。
しっかりと親が管理しましょう。
フィリピン渡航中に狂犬病に感染した男性が帰国後発症して亡くなった例の報告
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/11/h1116-2.html
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/11/h1122-1.html
狂犬病に関するQ&A
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。