今回は子どもを対象としたアニマルセラピーを行う施設として世界的に有名なグリーンチムニーズをご紹介します。筆者も学生時代に訪問して、実際にこの目で見てきた施設です。
1947年に創設された、 ニューヨーク郊外のコネチカット州にある非営利の寄宿農園学校で、対象になるのは、親から暴力を受けた子ども、親が養育を放棄してしまい教育を全く受けていない子ども、ドラッグに手を出してしまった子ども、落ち着きや集中力に欠ける学習障害を持った子どもなどです。様々な境遇の中で苦しみを抱えた子どもたちに、教育、レクリエーション、動物・植物・自然環境を生かした様々なプログラムを提供しています。
農場には常時およそ100余人の子どもが暮らしており、また、80余人の日帰りで通う子どもたちがいます。年齢は6歳から21歳で、彼らを担当するセラピストは、子どもたちが、愛情、責任感、思いやりの心といった社会的能力を養うのを助けるために、動物とのふれあいを利用しています。
子どもたちは、コミュニケーションがうまくとれず、感情表現が上手にできないので、なかなか自分の心と向かい合うことができません。口に出すことさえつらい思いに、小さな心で向かい合っています。そんな子どもたちに、アニマルセラピー的関わりはとても効果的です。グリーンチムニーズでは教育プログラムがしっかりと子どもたちの目標にそって組み込まれています。
観賞魚、爬虫類、フェレット、ウサギ、ハムスター、アヒル、ガチョウ、ニワトリ、ハト、オウム、インコ、モルモット、山羊、羊、牛、豚、馬、ロバ、ラマ、エミュー、クジャク、猛禽類、犬、猫といった、約400頭の動物たちが、グリーンチムニーズで暮らしています。
子どもたちと同様に、心や身体に傷を負った動物たちを積極的に受け入れており、たとえば、妊娠中の母馬の尿を使ったホルモン剤を作るために副産物として生まれた子馬(本来はドッグフードにされてしまいます)は生後まもなく母馬から引き離されたため大変なトラウマを抱えています。違法に飼育されていたホッキョクギツネやフェネックもいます。虐待や事故で怪我をして保護されたペットや野生動物もいます。
介助犬を子どもたちがトレーニングするプログラムです。
自分に自信を失っていた子どもたちが犬に指導し、それができるようになったときの喜びは、自分が何かできるようになった経験以上に、大きな感動と自信を与えてくれます。
コミュニケーションがあまり得意でなかったり、集中力がなく通常の学校では問題児とされる子どもたちはこのプログラムの中で忍耐力を育て、自己制御力を学びます。
犬は常に子どもたちの指示をきいてくれるわけではありません。たとえば、「待て」といっても待てないなど。でも何度も何度も子どもたちは繰り返し、その犬に「待て」を教えていきます。普段はすぐにあきらめてしまうような子どもでも、犬に対してはとても忍耐強く関わっていくことができます。
トレーナーは特に子どもたちのケアに関しての専門知識はなく、普通の人に教えるように介助犬のトレーニングの方法だけを指導します。 そのかかわり方が子どもたちを自立させ、犬に対しての教える力を育てます。子どもたち自身が教えられるだけの受身ではなく、犬に対して教えるために学ぶという積極的な学びがここにあります。
介助犬トレーニングの最後の2週間は、新しい飼い主さんに犬の扱い方などをすべて教えていきます。これが終わると犬たちも、介助犬としてこのトレーニングを卒業していきます。卒業する時は、犬との別れがさびしく、犬と離れるつらさに大泣きする子どもたちもいます。それでも自分が育てた犬がちゃんと卒業できた喜びと、新しい飼い主さんのために自分の犬が役に立つことの嬉しさを、感じることができます。
他にも以下のようなプログラムがあります。
特殊教育学級(いわゆる学校)、クラスでの動物飼育
農場の動物たちの世話
野生鳥獣のリハビリ
乗馬療法
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。