今回は、妊娠中から、赤ちゃんの登場、成長に伴って、代表的なペットである犬に生じた問題の具体例をご紹介します。
雑種犬のミミちゃんは、飼い主のママにべったりの甘えん坊。
ママは良縁に恵まれて結婚し、まもなくお腹に赤ちゃんが宿りました。
妊娠によるママの変化を敏感に感じ取ったミミちゃん。
なんと、食欲が落ちて体重も減ってしまいました。
ママは知らず知らずのうちに、お腹のなかの赤ちゃんに向いていた意識を
少しミミちゃんに向け、今まで以上にスキンシップをはかりました。
まもなく、ミミちゃんの食欲は戻り、落ち着きを取り戻し、
赤ちゃん誕生後も、大きな問題はなく、過ごすことができました。
トイプードルのユキちゃんは、以前からたまに胃液を吐くことがありました。
犬は人より胃酸分泌が盛んなため、早朝などの空腹時に胃液を吐く子がいます。
朝食を与えるとぺろりとたいらげ、元気もあり、体重も変わらない場合、
就寝前におやつを与えて、胃が空っぽになる時間を減らすことで、改善します。
また、胃酸分泌抑制剤の投与も有効です。
ユキちゃんは家族に赤ちゃんが加わったことで、吐く頻度が増えてしまいました。
ストレスの可能性も考慮し、不安を和らげるサプリメント(ジルケーン)の投与と
前回お伝えした赤ちゃんとペットを仲良くさせるコツの実践により、吐く頻度は激減しました。
ゴールデンレトリバーのラッキーはとてもおっとりしたのんびりやさん。
人に歯をむくなんてことは一切ありませんでした。
赤ちゃんが生まれても、動じることなく優しく接していました。
すくすく成長した赤ちゃんが体に乗ったり、尻尾を引っ張ったりしても我慢していました。
ところが、ある日、ママがちょっと目を離した隙に、ラッキーが赤ちゃんに噛みついたのです。
原因は、ラッキーのストレスでした。ラッキーは大型犬だったので、特にケージなどを設けず、家の中で自由に過ごしていました。ラッキーの居場所は活発になった赤ちゃんによってどんどん侵略されていきました。
ママはラッキーの休息場所としてケージを購入し、ラッキーがくつろぎたいときには、ケージの扉を閉めて、毛布をかけて、赤ちゃんが隙間から手を入れないようにしました。
休息や睡眠を決して邪魔されないスペースを確保することで、ラッキーは落ち着きを取り戻し、二度と赤ちゃんに噛みつくことはありませんでした。
犬は人間にとって、とても身近な存在で、愛情表現も豊かです。
例に挙げた子達は、きっと、もう少し前からなんらかのサインを出していたはず。
たとえば、フードを与えたときの食いつきがいつもより悪い、散歩の足取りが重い、など。
環境の変化で大変なのは、人もペットも同じです。ほんの少しでいいので、ペットにも気配り、目配りをしてあげましょう。
小田 寿美子 【獣医師】
記事テーマ
犬猫をはじめ、うさぎやハムスター、小鳥など、家族の一員として、また子どもの情操教育のために、ペットは日本の家庭にも欠かせない存在になってきています。ペットのいる暮らしに関するさまざまな疑問、メリットやデメリットについて、専門的な立場から連載していきます。ペットの問題行動カウンセラーとしても活躍する、筆者ならではの多彩な視点から述べます。