それは渡米して間もないころ、アメリカの図書館に初めて足を踏み入れた日のことでした。まだ友だちがいなかった私に知人が、「図書館でママと小さな子どものために読み聞かせをやっているよ!」と教えてくれ、行ってみることにしたのです。
当時子どもは1歳を少し過ぎたところで、まだ日本語でのコミュニケーションすらおぼつかないのにいきなり英語の読み聞かせなんて、退屈しちゃうかな・・・と思いつつも、お友だちが出来れば良いか!と軽い気持ちで図書館に向ったのでした。
これまで、図書館というと、常に子どもに「シーっ!」といいながらそそくさと本を選び、お話の会ではきちんと座って静かに聞く・・・というイメージがあったのですが、その日、私のそのイメージは良い意味でがらりと崩れ去ることに!
図書館に着いて、一番奥にある子ども用の書籍のあるエリアに進むと、そのエリアはさりげなく透明な仕切りによって他のスペースと区切られています。そして、結構広い。「子どもが走り回ったり、騒いだりするからなのかなぁ~」なんてことを考えながらエリアに入ると、総合案内とは別にキッズコーナーのためだけの案内カウンターがあり専属スタッフも常駐。そのスタッフの女性は、何人もの子どもに囲まれていました。仕切りの効果で、中の子どもたちの声はエリア外ではほとんど気になりません。子どもたちに、自由に本とのふれあいを楽しませてあげられる場所だと実感!
そうするうち、ほどなくして読み聞かせの時間に。すると、やってきた担当の男性は本を読む前にいきなり歌を歌いだすではありませんか! そして子どもたちにうながしみんなで大合唱が始まると、その歌の中でさりげなく手や腕などの準備運動もしたりして・・・大人である私まで「いったい何が始まるの???」というわくわく感でいっぱいになったところで、カエルのパペットが登場。“リーディングフロッグ”と名付けられたこのカエルちゃんと対話しながら、絵本の読み聞かせは進んでいったのでした。
絵本が開かれてもなお、会場には子どもたちの声が響いていました。というのも、語り手の男性は絵本のストーリーを伝えつつも、所々で「これは何かわかるかな?」など子どもたちに語りかけたり、話に登場する動物の鳴きまねをしたりしながら、“小さな寄り道”をしていたのです。子どもたちはそれに答えながらどんどんお話の世界に引き込まれていきました。そして絵本と絵本の間では座ったまま親子で出来る手遊び歌を歌ったり。その結果、問いかけがある時はみんな目をキラキラさせながらそれぞれ声を出して答えますが、お話を聞くときは驚くくらい集中して静かに聞いていました。
この日の対象年齢は0歳から1歳半。それより多少大きい子どもも来ていたとはいえ、これだけ小さい子どもたちが、注意されたわけでもないのにこんなに上手にお話を聞いて楽しむことができるなんて・・・本当に目から鱗、驚きの出来事でした。
そもそも、日本語で表現すると“読み聞かせ”となりますが、アメリカではこうしたプログラムは“ストーリータイム”と呼ばれ、絵本を読んで聞かせる、というより、時にぬいぐるみを使ったり歌を歌ったり身体を動かしたりしながら、絵本の世界を
“共に楽しむ”という考え方なのでしょう。
このストーリータイムは、嬉しいことに参加費無料のフリープログラムです。私が通った図書館では平日のほとんど毎日、こうした無料のプログラムがあって、子どもの年齢や興味によって皆さん好きなときに通っていました。中には夕ご飯のあと、パジャマで参加するストーリータイムなどユニークなものもあります。さらに夏休みには、一定の数の本を読んだ子どもに、好きな本を一冊プレゼントしてくれるというプログラムもあり、小さな子どものいる親子はかなり大勢参加していました。
聞いた限りでは、アメリカではこうした無料プログラムを多くの図書館で行っていて、プログラムに参加するだけなら特別な手続きなしで行くことが出来るようなので、少し長めの旅行などの予定がある方は、近くの図書館を訪ねてみてはいかがでしょうか?日本とはまた違った新鮮な体験が親子で出来るはずです!
このプログラムがとても楽しかった理由の一つには、読み手の男性がとても上手で、子どもたちの興味をうまくひきつけていた、というのは確かにあります。ただ、それ以外にも参考になるポイントがいくつかあったように感じます。
一つは、「いい子で静かに聞くことを求めない」こと。子供が絵本を楽しむ、ということは、必ずしも静かにとは限らないのではないかと思います。時には絵本の中に、ママやパパに教えてあげたかったり教えてほしい何かがあるかもしれません。子どもが何か反応を示したらそれをしっかり受け止めて応えてあげて、そのやり取り自体を楽しみながら、立ち止まりつつゆっくりと絵本を読み進めていく、というスタイル。私も実践中です。
もう一つは、“小さな寄り道を楽しむ”ということ。身近なものや動物などが出てきたら「これはなぁに?」と聞いてみたり、「ガォ~って鳴くね!」と鳴きまねをしてみたり、「(いついつ・どこどこで)見たね!」と実際の経験とリンクさせてみたりすることで、何度も読んでいる絵本でも、また新鮮な楽しみ方が出来るようになるはずです。実際、アメリカの図書館でストーリータイムに使われた絵本を後日あらためて見てみると、絵本自体はこんなにシンプルだったのか、と驚かされました。
読み聞かせは、親子の大切なコミュニケーションの時間。難しく考えずに、ちょっとスパイスを加えるような気持ちでお試しいただけたら嬉しいです。
関嶋 梢 【フリーキャスター】
記事テーマ
それは、パパが待つサンフランシスコへ、一歳児を連れて二人だけの飛行機の旅から始まりました。初めての子育て、初めての飛行機、初めての海外生活…初めてづくしの生活はまさに波乱万丈!子供と過ごす海外生活や海外での“育児”と“育自”についてリポートします!