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「ごめんね」を教えるには、どうしたらいいの?/2012年8月

「ごめんね」と「いいよ」

前回、前々回と子どものケンカにどう関わるか?をお伝えしました。

6つのステップをみて「あれ?『謝る』という項目はなくていいの?」と思われた方もいらしたのではないでしょうか。
今回は謝ること、「『ごめんね』を教えるには?」について考えてみましょう。
公園や児童館などでよく見かけるシーン。子どもたちがケンカをすると大人が「ほら、Aちゃん『ゴメンね』は?」と促します。Aちゃんが「ごめんね!」と言うと今度はBちゃんに大人が「ほら、Bちゃん『いいよ』は?」と向き直り、Bちゃんが涙を拭きながら「いいよ!」と言う。こんなやりとりを見たことありませんか?
 
私はこれを見るとなんだかモヤモヤしてしまいます。AちゃんBちゃん両者とも、納得しているのでしょうか? 何が悪くて謝って、何を許したのでしょう? 二人はここから何を学んでいるのでしょうか。
ちいさな子どもたちは、めいっぱい「今、ここ」を生きています。自分の視界の中で起きたことがすべて。その出来事を全体で俯瞰したり、相手の立場にたって考えることはなかなかできません。
では全体の視点と、AちゃんとBちゃんのそれぞれの視点で、起きた出来事を順にみてみましょう。
全体の視点

Aちゃんは、Bちゃんと遊ぼうと思って近づいていきました。

Bちゃんは、車のおもちゃで遊んでいました。Aちゃんが近づいてきて、Bちゃんの手にあったおもちゃを引っ張って自分が持ちました。Bちゃんは泣きました。
大人がやってきて、「どうしたの?」と聞きました。Bちゃんは泣きながらおもちゃを持ったAちゃんを指さして「取った~!」と言いました。大人は「Aちゃん、『貸して』って言わないで取ったらダメでしょ。『ごめんね』は?」 Aちゃんは「ごめんね」と言いました。大人はBちゃんに「ほら仲直りだね、『いいよ』って言おうね」 Bちゃんは「いいよ」と言いました。
…ちょっと大げさに書いています。ちゃんと子どもの教育を考えている現場では、もっと丁寧に子どもの気持ちを聞いてあげたり、二人に解決策を考えさせたりすることのほうが普通かもしれません。でも、保育園でも公園や児童館などでも、大人が「早く泣き止ませる」「トラブルを平穏に戻す」ために「ごめんね」と「いいよ」をとにかく言わせてしまうのを何度か見たことがあります。
子どもの視点で見ると

Aちゃんの視点はこんな感じでしょうか。

(あっ、Bちゃんだ♪)近づいていきます。Bちゃんの関心は車のおもちゃに向いています。
(車だ。)車のおもちゃを手に取ります。車に関心が向いたのか、Bちゃんをこっちに向かせようとしたのでしょうか。
(Bちゃんが泣いちゃった。先生が来た。何か言ってる。ごめんねって言えって言ってる。)
「ごめんね」(言ったよ。)
 
今度はBちゃんの視点を想像してみます。
(車~びゅんびゅん~♪)車が急に手元から消えます。Aちゃんの手に車があります。
「うわ~ん」Bちゃんは泣きだしました。
(先生が来た。ぼくにどうしたのって訊いてくれてる)「取った~!」
(先生がAちゃんに何か言ってAちゃんがごめんねって言って先生がこんどはぼくにいいよって言えって言ってる。)
「いいよ」(言ったよ。)
子どもの視点でみると、自分が何かしているところに、出来事が降ってきて、大人が出てきて、言えと言われたことを言った、というなんだかとても無力な感じがしませんか?
これでいいのでしょうか?
 
6つのステップに沿って

前回の6つのステップを復習してみましょう。

(1) 気持ちをよく聴いて、(2)状況を整理して、(3)状況と気持ちをあわせて、何がおこってどう感じたかをつなげて言語化してあげると、子どもたちの経験の中に俯瞰の視点を育てることにつながります。
ああ、一緒に遊びたかったんだった、でもぼくのことみてくれないからおもちゃを取ったんだ。そして、(4)どうしたかったかどうすればよかったかを聞かれた時に「一緒に遊ぼう」って言えばよかったな、という答えにたどりついたらどうでしょう。
何度かうっかり失敗することがあっても、そのうち「こういう時は『一緒に遊ぼう』って言えばいいんだ」と思い出して声をかけることができるようになるでしょう。
(5)相手の気持ちを想像するステップは、小さいうちは言葉を補って手伝う必要がありますが、繰り返し大人が関わって、思いやりを育てていく感覚でいるとよいと思います。相手の気持ちが想像できないからワガママな子、悪い子、と決めつけたりせずに、徐々に練習していくつもりでつきあえるとよいですね。
そして、「ごめんね」を教えるのは、このタイミングなのです。
「ごめんね」を教えるチャンス

「ごねんね」を教えるチャンスは(5)で相手の気持ちを想像したときに、それはびっくりしただろうなとか、それで悲しくなったんだなとか、だから怒ってたんだ、と本人が気づいた時です。

「Bちゃんは、遊んでた車が急に取られたって思って、泣いちゃったんだね。でも、Aちゃんは一緒に遊びたかったんだね。そしたら、『ごめんね、ぼく、一緒に遊びたかったんだよ』ってAちゃんに言ってみる?」と提案してみます。
謝罪の言葉は、「悪かったなあ」という心がこもっていることが大切です。「仲良くしたいんだ」という意欲もあれば、より伝わりますね。でも、言わされた「ごめんね」では、相手には何も伝わりません。
「相手を悲しい気持ちにさせたり、痛い思いをさせた時、ごめんねって言えるといいね」ということを繰り返し伝えていきます。実体験や絵本やアニメなどみながら解説したり、もちろん、大人が必要な時にちゃんと心をこめて「ごめんね」を言っていると、子どもたちは自然に覚えていきますよね。私もついつい身内には甘えてしまい、ごめんねを端折ることが多いので気をつけます!
「いいよ」の心

許す側Bちゃんにも、相手の気持ちを想像できたところで働きかけます。まずはステップに沿って、その子にとって何が起きて、どんな気持ちだったかをわかってもらえた、という(1)から(4)のプロセスまで進んでくださいね。

そして(5)と(6)でこんなふうに言うことができます。
「ほんとはAちゃんは遊びたかったんだね。仲良くしたいんだね、意地悪じゃなかったんだね。また一緒に遊びたいんだって。どうする?」と相手の気持ちをふまえた上で、今どうしたいかを訊きます。Bちゃんも遊びたかったら、「いいよ、って言ってあげるとAちゃん安心するよ」と教えてあげるのです。
もしも、許したくない、今は一緒に遊びたくない、というならば、その時は尊重されるべきだと私は考えています。許す許さないは、その子のタイミングでやればいいし、まだスッキリしない気持ちがあるなら聴いてあげたり、気分転換に別なことをしたいかもしれないのです。
大人の感覚で、許さないと相手の親に悪いとか、この子は心が狭いのではないかとかで無理に許させることは、本人の尊厳を育てそこねてしまう、と私は考えています。
何をされても、相手が謝ったらそれを受け入れて許すべき、ということを自分に置き換えたら抵抗がありますよね。でも実は、抵抗を感じながらも、納得いかない許しを受け入れてしまう大人は多いと私は感じています。それは、小さな頃からのこんな積み重ねの結果なのではないでしょうか。
ココロを育てる聴き方・伝え方で、「ごめんね」と「いいよ」が本物になっていくといいですね。それには、今とにかく形でやらせるのでなく、いつかできるようになるための働きかけを続ける、そう思ってやってみてくださいね!

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高橋 ライチ

高橋 ライチ 【コミュニケーション・カウンセラー】

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