親子や夫婦などのスキンシップについて研究している山口 創先生に育児におけるスキンシップの大切さについてうかがいました。
子どもの心を育てるために大切なことがあります。それは子どもをしっかりと抱きしめることです。たっぷりと抱っこし、スキンシップをしてあげると、子どもは人の温もりや抱かれた心地良さを皮膚感覚として感じます。すると自分が大切にされていることを体感し、自己への信頼感、そして人への信頼感を醸成していくことになるのです。その後、その子がおとなになったときにも、ずっと自尊心を高くもって、他者と親密な関係を築いていくことができるのだと思います。
樹に例えると、抱っこやスキンシップは心の根っこを育てます。樹はしっかりと根を張っていないと、将来ちょっとした風で折れてしまったり、栄養不足になってしまったりして、枝葉を茂らせて大きな実をつけることができなくなってしまうでしょう。根は外からは見えません。しかし将来にわたって「根底」からしっかりと支える役割を果たしています。では、なぜ身体への接触が、心の安定にとって大切だといえるのでしょうか。それは単なる心理的な現象なのではなく、オキシトシンという生理物質のはたらきであることが最近の研究によってわかったからです。
近年、オキシトシンの作用が注目されています。未だ不明な点が多い生化学物質ですが、この物質は脳(視床下部の室傍核と視索上核)で合成され、下垂体後葉から分泌されます。
オキシトシンのはたらきには2つあります。1つはホルモンとしてはたらき、分娩時の子宮収縮や乳腺の筋線維を収縮させて乳汁分泌を促すはたらきです。
もう1つは中枢神経(脳)で神経伝達物質としても働いている作用です。こちらは母子の絆や、信頼や愛情といった感情などの社会的行動に関わっています。人間も人間以外の動物でも、他の個体への本来ある正常な警戒心を一時的に緩めリラックスを促し、接近行動を可能にすることで、交配や集団の維持を促すはたらきがあります。
現代は、便利な育児グッズが次々と出てきて、子どもとの肌と肌の触れ合いがどんどん減ってきています。泣き止ませアプリや携帯型のゲームなど、多くの母親が重宝しているようです。
しかし、子どもにとって本当に必要なことは昔も今も変わらないはずです。その基本は人と人とのリアルなコミュニケーションにあるといえるでしょう。リアルという意味は身体的なものといえます。泣いたら抱き上げて子どもの心情を理解したり、子どもの体を揺すってトントンしながら優しい言葉をかけてあやす。母乳をあげるというのは、その象徴でしょう。単に栄養を与えているのとは違うのです。
昔の育児はそのようなことをわざわざ言わなくても大切なことは自然にきちんとできていました。しかし現在では、核家族が6割を超えるようになり、世代間で育児の仕方が継承されにくくなってきました。たとえば、「正しい」抱っこやおんぶの仕方を多くの母親に教えてあげる必要があるのです。
正しいというのは2つの側面があります。1つは母親にとって腕や腰など身体への負担が小さいこと、もう1つは子どもにとってきちんと母親の身体にしがみついて腰が鍛えられたり、体の感覚を養うようなやり方です。実はそのようなことが自然にできるのは、日本に昔から伝わる兵児帯(へこおび)がもっとも適しているのです。
母子にとって理想的ともいえる日本の伝統的な育児の知恵を見直し、広げていくことが、いまの日本にとって必要なことではないでしょうか。
山口 創(はじめ)
先生
桜美林大学リベラルアーツ学群教授。臨床発達心理士。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。
★子育て講演会が開催されました
「子どもの「脳」は肌にある」
去る9月27日(土)、橋本市教育文化会館 大ホールにて山口 創先生の講演会がありました。会場は、小さなお子さまとママやパパでにぎわいました。講演後に行われた、抱っこ講座や今話題のロディヨガも大好評!
主催:NPO 法人エンジェルサポートアソシエーション
共催:ミキハウス子育て総研株式会社/株式会社大倉
協賛:お子さまの健やかな未来を応援する会
後援:橋本市教育委員会
会場:橋本市教育文化会館
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