乳児の健康問題を論じる場合に、基礎になる数字に乳児死亡率がありますが、出生1000に対して、1歳までの死亡数で表します。日本は、1965年に20を切り、世界の文明国の仲間入りをしました。以後、急速に低下を続け、2021年には1.7となり、世界で一番赤ちゃんが亡くならない国になりました。生活の衛生環境が整備され、妊娠経過・分娩の安全確保、異常があれば即時に対応できる母子・新生児医療の充実、予防接種の普及などの感染症予防対策の充実、栄養の獲得や安全な保育環境の整備、小児医療の充実、疾病の早期発見対策など複合した条件が整うほど、乳児死亡率は低下をします。
命は守られるようになりましたが、それに伴って子どもたちはより良く、心身ともに健康に育つようになったのでしょうか?
2022年に文科省は公立小中学校生の8.8%に発達障害の可能性があると報告し、課題はありそうです。他方、子どもの心身の健康や成長発達に関わるいろいろなことが分かってきました。例えば、鉄は、神経の発達に必要で、不足をすると認知・行動の発達に問題を生じる、記憶力や学習能力の低下などをきたすことが分かってきました。ビタミンDについても、新生児期に血中濃度が欠乏量だと自閉スペクトラム症が明らかになる頻度が3.6倍になるという報告、環境省が行っているエコチル調査に用いた血液で4歳時の血中ビタミンDの値の測定値が欠乏量であった例は2歳時の身長との比較で、身長の伸びが対象群に比較して有意に小さかったという報告もあります。
鉄不足で起こる病気としてよく知られているのは、鉄欠乏性貧血です。その頻度が高いのは乳幼児期です。成長発達の異常の有無の確認、疾病の早期発見、家族への育児支援などを目的に行政が定期健康診査を行っています。当然、貧血の早期診断は重要課題です。ところが、血液検査を全県で行っているのは沖縄県だけです。市町村別に毎年結果が記録されています。多い所は10~13%に観られています。では、他の都道府県ではどうでしょうか? 診断された疾病の内容を記録している所はありますが、沖縄県に比べると極めて低率ですし、記録がない所もあります。医師の通常の診察では早期発見が難しいことを示唆しています。
赤ちゃんで、顔色が蒼白、体重増加不良、哺乳不良、不機嫌、頻脈、元気がないというのは貧血の症状です。この症状が明らかな場合は、貧血は治療が必要域にあることを示しています。どこの国でも鉄欠乏性貧血は問題で、アメリカの学者で、全員に一定期間鉄剤を飲ませることを提唱している人もいます。
ビタミンD不足はくる病を起こすことが知られています。健診でくる病の有無を診るのは、やはり重要課題です。所見から診断可能です。ビタミンDは、更に、自然免疫で重要な働きをしていることが明らかになっています。新型コロナウイルス感染で血中濃度が低いと重症度や死亡率が有意に高く、入院時に投与した群では軽症化、死亡例がなかったことも報告されています。くる病以外では、血中濃度を測定するしか正常であるか否かを知る方法がありません。エコチル調査の血液検査の報告では、血中の値が20ng/ml以下の不足域が23.1%、欠乏域の10ng/ml以下が1.1%であったそうです。血液検査を行った疫学調査の報告では、不足域が調査対象の40~50%という報告もあり、鉄欠乏より高頻度です。
鉄も、ビタミンDも食事からの摂取が基本、調製粉乳には添加されているが母乳には少ないので母乳栄養児で不足は起こりやすい、過剰の摂取は健康被害を起こすことが共通です。推奨されている摂取量は明らかにされていますので、食事摂取量の状態から摂取量不足が明らかであればサプリメントの利用はお勧めです。ビタミンDは1日の推奨摂取量が5μg、上限許容量が25μg(10μgが400単位)です。乳児期は健康診査以外にも予防接種などで専門職に接する機会は多いので、ご相談をされて摂取量を決めるのが良いでしょう。
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