事故・ケガ 子どもの病気 教えて!ドクター
「人生100年時代」。今の子どもたちは、100歳まで生きることが当たり前の時代を生き抜くことになると言われています。どんなに寿命が長くなっても、元気でいなければ仕様がないですね。では、子どもの頃からできる、「元気に長く生きる」ための備えはなんでしょうか。その一つが、骨を強くすることだと思います。大腿骨や背骨など大きな骨を骨折すると、寿命まで短くなると言われています。また、元気な高齢者が、骨折を契機に体が不自由になるのは本当によくあることです。
骨は子どもの時に人生における最大の骨量(ピークボーンマス)を獲得し、その後ほとんど増えずに老年期を迎えます。この「ピーク」の骨量を10%増やせれば、骨粗鬆症の発症を13年遅らせることができることが知られています。この雑誌の読者の皆様にとっては少し先の話になりますが、お子さんが思春期を迎え、身長の伸びがピークに達し、特に女の子は初潮を迎える時期までが、骨量がぐん、と増えるゴールデンエイジです。女の子は小学校の高学年、男の子は中学生ぐらいでしょうか。その後18歳にピークボーンマスとなります。この時期に成長ホルモンと性ホルモンの働きで、骨が活発に作られるのです
では、ピークボーンマスを増やすにはどうしたらいいのでしょうか。一番大切なことは、運動を習慣にすることです。習慣にするためには、「体を動かすことが好き」と言える子どもに育てることが大切で、実は、すでに幼少期には運動好きかどうかが決まるとも言われています。スポーツ庁の調査では、就学前に外遊びをする日が多い子ほど、運動能力も高く運動が習慣になっているという結果が出ています。
骨が運動で増える理由は、骨の細胞にあります。骨の組織のなかに存在する「骨細胞」の周囲には液体があり、重力や振動がその液体を揺らすことで、骨細胞に「骨を作ろう!」という様々な信号が入ります。実際に骨量増加効果がある、と知られているのは、ジャンプを伴う運動です。ただ歩くだけ、とか水泳などはあまり効果がありません。日本臨床スポーツ医学会の資料が参考になります。
「子供の運動をスポーツ医学の立場から考える」https://www.rinspo.jp/files/proposal.pdf
次に大切なことは、もちろん、栄養です。骨を活発に作るためには、原材料が必要です。よく知られている、カルシウムは乳製品から摂取するのが効率面では最強ですが、苦手な子には煮干しを粉にして吸収をよくしたものをふりかけにしたりお味噌汁に入れたりするのを、個人的にはお勧めします。
もう一つ、非常に大切なのがビタミンDです。最近は新型コロナウイルス感染予防を含めた免疫力アップの効果も注目されています。ビタミンDは鮭・いわし・サンマといった魚の身の部分やきのこ類などの食品から摂取するほか、あまり知られていないのが紫外線に当たって皮膚で合成することができるということです。紫外線による日焼けやシミ、皮膚がんを気にして、避ける人は多いのですが、実は避けることでビタミンD不足になってしまうのです。子どもには春や秋冬、夏も、長時間外で遊ぶ時以外の日常では、日焼け止めを塗ることは控えた方が良いと私は思っています。外遊びをする時間が短い子には、意識してビタミンDとカルシウムの多い食品をとらせましょう。不足分はビタミンDのサプリメントなどで補う手もあります。
また、妊娠・出産・授乳期のママも骨量が減ります。特に、高いピークボーンマスを得られなかった女性が、出産後の授乳期に背骨や大腿骨をちょっとしたことで骨折することが、近年問題になっています。妊娠中や授乳中のママの体は、赤ちゃんのために、骨を溶かしてまでカルシウムを届けようとします。そのため急激に骨密度が減ることがあります。授乳をやめると、通常は妊娠前の骨密度まで戻りますが、妊娠前の骨密度が低い場合は、元の高さには戻らないことも知られています。心配な方は、若い世代の骨専門の検査と治療を行う「小児・AYA世代ボーンヘルスケアセンター」が順天堂練馬病院にありますので、ご相談ください。
子どもたち自身が、骨の大切さや骨粗鬆症の弊害を考えて自分で行動を起こすことは難しいため、周りの大人が子どもたちに楽しく働きかけながら、将来困らないように一生の宝物となるような強い骨を授けてあげられたらいいな、と思っています。
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